『たとえあなたを忘れても』が示す自信を失った人へのメッセージ 第1話から切ない展開に

『あな忘』第1話から切ない展開に

 「生きる意味」とは何か。夢に向かって前進すること、思い出を積み重ねながら充実した日々を送ること、そして誰かを愛すること。人それぞれにその意味は異なる。それは当然のことのはずなのに、誰もが他人と比較して自信を失った経験があるのではないか。ドラマ『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が示すのは、そんなときにこそ思い出してほしい「“社会に貢献しないもの”こそが本当に重要なものである」というメッセージだ。

 この作品は、『日曜の夜ぐらいは...』『何曜日に生まれたの』に続く、ABCテレビ制作の日曜22時のドラマ枠の第3弾であり、脚本家・浅野妙子のオリジナル作品である。浅野が描く人間関係の温かみが感じられる脚本は、神戸を舞台に2人の男女の感情を丁寧に描き出す。

 主人公の河野美璃(堀田真由)は実家のある東京を離れ、従兄妹で心療内科医の遠山保(風間俊介)が勤務する神戸で独り暮らしをしている。ピアニストになる夢を諦めた彼女に残ったのは、音大時代に借りた奨学金の返済。彼女は音楽教室のピアノ講師として、質素な生活を送っている。「社会の役に立たない」けれど、大切な音楽を身近に感じながら。

 小学校高学年になるにつれ、彼女の担当する生徒たちはピアノを次々にやめていく。中学校への入学を前にして、音楽よりも勉強に力を入れていく生徒が増えていくさまには、妙なリアルさがあった。「社会の役に立たないものなんてない」と言いつつも、多くの人は、日常生活の中で無意識に“順位”をつけている。そんな美璃の心の苦悩を描写した場面であったのではないか。

 また、音楽教室の撮影では、国の登録有形文化財に登録されている御影公会堂がロケ地に。「撮影に合わせて豪華なソファーを用意し撮影セットを作った」とのことで、地域の人から見ても普段とは違う部屋になっている様子が楽しめるとのこと。歴史ある文化財の荘厳な雰囲気が、美璃にとって、音楽教室が大切な場所であることを際立たせる。

 ある日、音楽教室から帰る途中で見慣れないキッチンカーを目にした美璃。メニューを見て大好きな「メロンジュース」に心を奪われるが、1杯700円は節約生活を送る彼女には贅沢品。迷った末に300円のオレンジジュースを注文した美璃だが、このキッチンカーの店主・青木空(萩原利久)との出会いが、彼女の人生を変えてしまう。

 数日後、音大時代の同期である衛藤まりあ(森香澄)の紹介で、音楽出版社の面接を受けることになった美璃。気分転換に初めて空のメロンジュースを購入し、その小さな変化に気づいた空は、彼女に声をかける。「私って役に立たない人間だなぁ。つくづく社会の役に立ってない人間だなって思って」と話す美璃に、今は使われていないホテルと月の写真を見せる空。それらは「社会にとってなんの役に立っているのかわからない」ものでありながら、空の心をそっと支えてきたものだった。“役立たず”のレッテルを貼られたものたちを見つめる空の視線に宿っていたのは、自分と同じ仲間を見つめるかのような温かさだ。

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