『ブギウギ』の脚本家・足立紳と“人情もの”は相性抜群? 初の朝ドラに込めた想い

足立紳が『ブギウギ』に込めた想いとは?

 だが足立自身が監督を務めた作品には、やはり“人情”の要素を強く感じる。監督デビュー作『14の夜』(2016年)や今年公開の『雑魚どもよ、大志を抱け!』は少年たちが主人公の青春ものだが、スクリーンに映し出される彼らの様子からは、子どもらしい表面的なやり取りに隠された心の機微がたしかに感じられたものだ。さらに、自伝的小説を自ら映画化した『喜劇 愛妻物語』(2020年)は、ある夫婦間の特別な愛情を喜劇仕立てで描いた人情ものである。いずれも彼のオリジナル作品。脚本家としては何でもござれだけども、作家としては“人情”がベースにある物語を生み出している。

 本作の公式ガイドである『連続テレビ小説 ブギウギ Part1』(NHK出版)には足立の『ブギウギ』に込めた想いが掲載されている。それを読むと、彼の朝ドラへの挑戦は特別なものであり、一筋縄ではいかなかったことが分かる。部屋の壁に貼った笠置シズ子の写真と、毎日のように聴いた彼女の歌に励まされたらしい。

 足立は、笠置シズ子が多くの苦難に見舞われた人生を送ったことに触れたうえで、「笠置シズ子さんはどう乗り越えたのだろうかと想像した。もちろん好きな歌で目いっぱい才能を開花させ、歌うことと、どこから授かったのかと思う持ち前のユーモアで乗り越えていかれたのだろうと思ったが、なにも乗り越えなくてもいいのだと、笠置シズ子さんの歌と写真は言っているような気がした」と語っている。

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 生きていれば誰にだって苦難は訪れる。時が止まることはない。そんな人生を豊かに進めてくれるのが他者との交流であり、そこに生じる個々の心の動きこそが人情なのである。『ブギウギ』に登場する者たちは誰もがチャーミングだが、よくよく目を凝らし耳を傾けてみると、それぞれに苦難に立ち向かっていることが分かる。彼ら彼女らの言動の一つひとつが小さなエピソードを生み、それらが交わり共鳴し合うことで、スズ子を軸にした大きな物語に発展するのだ。そんな世界を描く足立紳の手腕に、私たちの誰もが勇気づけられているのではないだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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