元携帯販売員が語る、『北極百貨店のコンシェルジュさん』が“働く20代女性”に刺さる理由
「何かお手伝いすることはございますか?」
これは、いつかの自分の物語だ。否、私だけではない。この作品は「いつかの私たちの物語」なのだ。そう感じさせる力強い引力を映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』から確かに感じた。
実は冒頭の主人公・秋乃のセリフと全く同じ台詞を、私も使ったことがある。だからこそ、『北極百貨店のコンシェルジュさん』が描く、仕事における“新人時代”をつい自分に重ねてしまった。新卒でとある携帯電話販売代理店に就職し、いわゆる“携帯ショップのお姉さん”になった私は、秋乃のようなやる気に満ち溢れた新人ではなかったかもしれない。それでも、たくさんの人に迷惑をかけながら「申し訳ございません!」を連呼した新人時代には覚えがある。
大学を卒業したばかりの何の知識もない小娘でも、制服に袖を通し、胸に名札のバッジをつけたら、もう立派な携帯販売員なのである。入社初日はそれが嬉しくて、同時に責任を感じて恐ろしくもあった。
秋乃が新人コンシェルジュとして働き始めた「北極百貨店」は、お客様がすべて動物という不思議な百貨店。わからないことばかりでも、ひっきりなしにお客様はやってくる。頭をフル回転させながら、不器用にも「働く」ことを経験する姿、先輩のコンシェルジュの優しい視線、役に立たない自分の未熟さ(動けば動くほどに他人の足を引っ張るような)……。この物語には、多くの人が一度は経験したことのある、新人時代の思い出が眠っているのだ。
加えて本作は、接客業に対する解像度の高さも素晴らしい。接客業は、自分で来店する顧客を選ぶことができない。本作は例えフィクションであってもそのリアルさを欠かさず、それでも秋乃が頑張っていく姿に大きな魅力がある。
動物たちの中には、バーバリライオンのカップルのように売り手に“特別な思い出”をくれる客もいれば、カリブモンクアザラシのような“クレーマー”もいる。それは現実の接客業も同じ。ちなみに私自身も「お客様は神様です」とカウンターで詰め寄られ、名刺を破られた経験があるので、秋乃が対応したクレーム対応は、“接客業あるある”とも言えるかもしれない。そんな当時の嫌な記憶がうっすらと甦りながらも、私の接客を喜んでくれたある老夫婦のことを思い出して、胸が温かくなった。
接客業では、お客様の不満も喜びも、直に目を見て伝えられる。作中では、秋乃の淀みないキラキラとした目の表現が印象的に描かれているだけでなく、「お客様の目線に立って」という言葉が何度も登場していた。さらに、北極百貨店はいわゆる高級百貨店。だからこそ、店内にもウーリーの氷像のような文化的展示があり、レストランも高級志向な雰囲気に。私が本作を観て、真っ先に思い浮かべたのは日本橋高島屋だった。秋乃と動物たちのかわいらしいビジュアルが作品をより彩り豊かなものにしていることは言うまでもないが、こうした細部への作り込みで“接客業の物語”に寄せた工夫も、作品をより楽しいものにしている。