『NANA』『パラキス』『ご近所物語』 矢沢あいが描くファッションと主人公たちの成長譚

矢沢あいが描くファッションと主人公の成長譚

「美しい装いは人に勇気や自信を与えるわ」

 この言葉は、『Paradise Kiss』に登場するイザベラ(山本大助)が主人公・早坂紫に放った言葉だ。自分流の生き方や見に纏う世界観を表現できるのがファッションの魅力だが、時にそれは他人の人生さえも変えてしまうことがある。ファッションを愛し、魅了され、そして狂わされるーー。ファッションを取り巻く多感な年齢の女の子たちの物語を描いた漫画家こそが、矢沢あいだ。

 『天使なんかじゃない』、『ご近所物語』、『NANA』、『Paradise Kiss』など、数々の優れた作品を制作してきた矢沢。彼女の作品は、ファッション界において、時代を超えてもなお魅力的な存在として輝き続けている。

 中でも、パンクファッションをベースに描いた『NANA』の影響は今でも非常に強く、TikTokでは「NANA再現コーデ」などとしてY2Kファッション(2000年代のトレンドを取り入れたファッション)が広まっている。Vivienne Westwoodのアーマーリングやオーブライターなどの象徴的なアイテムは、ファンにとって作品を思い出すトリガーにもなっている。

 ファッションデザイナーの前田華子は、『NANA』からインスパイアを受け、モデルたちにダークなリップと鼻ピアスを取り入れたコレクションを発表。(※)そして、2023年8月には、アパレルブランド「ROYAL PARTY」と『ご近所物語』のコラボレーションが実現し、本作に登場する美人でスタイル抜群な“バディ子”こと中須茉莉子に焦点を当てたアイテムも発売されている。

 2022年7月より全国巡回していた『ALL TIME BEST 矢沢あい展』(※2023年8月に終了)には、作品の影響を受けて服飾の道を目指した学生や、矢沢作品に登場するキャラクターの再現コーデを着用したファンも多く足を運んだという。

 なぜ矢沢作品で描かれるファッションは愛され続けているのだろうか。それは、矢沢がファッションを通じて、キャラクターたちの信念や内面の核を描き続けてきたからだ。服は自己表現であり、心の装備でもある。「こうありたい」と思う理想の自分でいるために、憧れのブランドの服に袖を通した思い出がある人は多いはず。

 矢沢の作品に登場するキャラクターたちも、その理想の自分や内面での葛藤を自分のファッションに投影しているように受け取られる。特に服を制作する側に焦点を当てた『ご近所物語』と『Paradise Kiss』の2作品は、この傾向が顕著だ。これらの作品には、服を作る側としての登場人物たちのファッションへの情熱が深く根付いている。

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