『NANA』『パラキス』『ご近所物語』 矢沢あいが描くファッションと主人公たちの成長譚

矢沢あいが描くファッションと主人公の成長譚

 『ご近所物語』で服飾系の専門学校に通う主人公の実果子は、元気ハツラツで唯一無二のセンスを持つ女の子だ。彼女の「好き」に満ちた独自の世界観はファンの心を掴んで離さない理由の一つにもなっている。

 実果子が纏う鮮やかな色使いや、ファッションに取り入れているデコラティブなモチーフは、見ているだけでも楽しい気持ちにさせられる。これは単に実果子のファッションセンスの独自性を強調しているだけでなく、彼女が物語の終盤で述べる「手に入れたいのはハッピーエンドではなく、鍛え抜かれたハッピーマインドだ」という言葉をファッションで実現しているように受け取れる。

 一方で、『Paradise Kiss』の衣服や小物は、緻密で贅沢なディテールとラグジュアリーな雰囲気を特徴とし、この雰囲気がデザイナーであるジョージ(小泉譲二)の繊細な感性と調和している。5歳の頃から服を自分で制作し、天才的なファッションセンスを開花させたジョージ。自身のファッションセンスに絶対的な自信を持ち、本当に自分が作りたい服だけを作ってきた。『Paradise Kiss』の中で表現される「ファッション」は、そんな圧倒的な服飾デザインのセンスを持った彼が、内に秘めた美への追求心そのものでもあるのだ。

 夢や目標を叶えるために、情熱を持って成長していく矢沢ワールドの住人たちだって、時には挫折もする。それでもひたむきに努力をしながら、自分なりの幸せを模索するのが彼女たちなのだろう。いつだって私たちの共感を呼び起こすのは、心を支えてくれた“あのキャラ”のポリシーが根付いたファッションなのだ。

 さて、ここでもう一度冒頭に戻ろう。

「美しい装いは人に勇気や自信を与えるわ」

 凛とした姿で真っ直ぐに生きていくための、美しい装い。それは我々から見た「矢沢あいの作品」でもある。クローゼットを開ければいつでも、我々を優しく抱きしめてくれる大切な物語。もはや多くのファンにとって“バイブル”として語り継がれている矢沢の作品だが、着る人によってその思い出の肌触りは全く異なるに違いない。だからこそ、矢沢の作品は誰かと語りたくなる魅力に溢れている。さて今度は、あなたのお気に入りの一着を教えてもらうとしよう。

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