スタイリスト北村道子、アンドレ・レオン・タリーの美学に共感 「スタイルは続いていく」

北村道子、アンドレ・レオン・タリーを語る

 2022年1月に73歳で他界したファッション業界のレジェンド、アンドレ・レオン・タリーの生涯を描いたドキュメンタリー映画『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』の公開記念トークイベントが3月18日にBunkamura ル・シネマにて開催され、スタイリストの北村道子が登壇した。

 3月17日の公開初日に本作を鑑賞したという北村は、映画の感想について「大変面白く観ました」と述べ、「私は若い頃を知っているので、こんなに恰幅が良くなっていることにびっくりしました」と続けると、その正直な一言に会場は笑いに包まれた。初めてタリーを認識したのはインタビュー誌を通してで、アンディ・ウォーホルのサロン兼アトリエ“ファクトリー”でアシスタントをしていた時代。ウォーホルがタリーを重宝していたのは「彼のトークが素晴らしいからではないか?」と推測し、「彼のお婆さんの影響も大きいと思いますが、どのような会話をしていたか想像がつきますよね。品格を学んでいったからこそ、インタビューでのトークが良かったのではないかなと思います」とタリーのルーツにも言及。作品を通して改めてタリーの生きた場所や時代が北村の目にどのように写ったか問われると、「ここで語られていないことが大事ですよね」と回答し、「彼は何を必要としていたんだろう、ということを考えることが大事なんじゃないかと。彼が話をしていない時は、相手を分析しているんだと思います。だんだんトーク(のテンポ)が早くなっていくのは、迎え入れられているという意味ですよね」と、この映画だからこそ見ることのできるタリーの心が変化していくさまなどを挙げた。

北村道子

 もともと彫刻家としての道を進んでいた北村。「(ファッションに)そんなに興味がなかったのですが、フランスでお金がなくて、いろいろな紙などで洋服を作ってみたら売れて。そんなことをしていたら、友人から『VOGUE』のアルバイトに誘われたんです」とファッションとの意外な出会いを振り返る。また、これまでも説いてきた“無鉄砲に突き進むことの大切さ”に絡めて、「いまも無知だから強いですよ」と話し、「知ってしまった時点で過去に行ってしまいますよね。知らないということは未来だから、ものすごく強いんです。ないものを取り返すことはできないから」と独自の見解を展開。自身が歩んできた道のりについては、「若い時から自分の地球儀を真っ白くして、自分はどうやって歩くんだろう?って、そういうことを考えてきました。ファッションに対しても同じ。例えば『この洋服一枚をシャネルはどういう意味で作ったんだろう?』と考えながら、実際に着て(洋服が)立体になるというところまでがシャネルの想いなんですよね。それが“服の力”だと思うんです」と服そのものへのリスペクト、ジッパーやファブリックなどのあらゆるもの全てに感動することの重要さを語り、劇中でボトムラインをいつも意識して服を見ていたタリーの審美眼も話題に上がった。

FACETASM 落合宏理、ファッション界の“レジェンド”アンドレ・レオン・タリーを語る

3月17日からの映画公開に先駆けて、装苑PRESENTS『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』プレミア試写会が3月13日に東…

 3月13日に行われた本作のプレミア試写会に登壇した、FACETASM(ファセッタズム)のデザイナー落合宏理が、“大きく影響を受けた人”として挙げたのが北村だった。そんな北村が大きく影響を受けた人を聞かれると、「死者はみんな“師”ですね」と即答。「死んで初めて自分の中に入るというか。大江健三郎の全集も読んでないけれど買っていて、彼が亡くなったら読むんだろうなって思っていたんです。初期の作品はアナーキーで面白かったし、イマジネーションがものすごく湧きました。若い時はみんな疑問だらけだし反抗しますよね、反抗のエネルギーが形を作る、その際たるものがファッションじゃないかなと思うんです」とコメントした。

 本作のキャッチコピー“ファッションは儚く、スタイルは永遠。”を起点に、話はデザイナーの仕事へ。アレキサンダー・マックイーンが40歳という若さで他界した際を例に挙げ、「私だけじゃなくトム・フォードもショックだったと思うし、いろんな形でみんなそういうことはある。だけど、喪失感があってもコレクションはパワフルだったりして、私とは違うんだなと。デザイナーは毎回(新しいものを)作っていかなければならないから」と当時を思い返しながら答えた。「そういう意味で、デザイナーは死と生の世界をリンクしていると思うんですよね。アンドレが亡くなって、新たにそういう人がどこからともなく現れるかもしれない。彼もそうだったように、ある時突然ピックアップされるんだと思う」ともコメント。最後には、「アンドレが映画でも言っていたように、デザイナーは同じものは作らない。でもスタイルは続いていく。そのために4シーズンのコレクションをやっているわけです。永遠なんですよ。だから、“スタイル”を持ってない人はダメです(笑)」と笑顔で締めくくり、イベントは暖かな拍手に包まれるなか幕を閉じた。

■公開情報
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』
Bunkamura ル・シネマにて公開中
監督:ケイト・ノヴァック
製作:アンドリュー・ロッシ
出演:アンドレ・レオン・タリー、アナ・ウィンター、トム・フォード、マーク・ジェイコブス、イヴ・サンローラン、カール・ラガーフェルド、ノーマ・カマリ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ、ウーピー・ゴールドバーグ、イザベラ・ロッセリーニ、ウィル・アイ・アム(ブラック・アイド・ピーズ)、ラルフ・ルッチ、サンドラ・バーンハード、マノロ・ブラニク、アンドレ・ウォーカーほか
提供・配給:リージェンツ
2017/アメリカ/93分/英題:The Gospel According to André/日本語字幕:柏野文映
©︎Rossvack Productions LLC, 2017. All Rights Reserved.

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