カルト作『悪い子バビー』がまさかの日本初公開! 狂った日常から、奇妙で“優しい”物語へ

奇妙で優しい『悪い子バビー』の味わい

 これは1キャラクターに向けた「感情移入」という小さなものではない。もっと大きな、バビーのような人間が、存在するくらいは許される世の中であってほしい、という願いである。社会と少しでも衝突した人、距離を感じた人、孤独や疎外感を感じた経験のある人ならば、彼の存在が許されることを願ってしまうだろう。その小さな願いが鮮烈な音楽とともに、思わぬ形で結実するのを目撃したとき、ドン底から始まった物語とは思えない優しい感覚を味わえるはずだ。

 もちろん、これは90年代、もう30年以上も前の映画である。しかも当時からカルト映画として作られている。今日の視点から見れば「粗」にも見える部分もあるし、露悪的な描写に思わずドン引きするかもしれない。いかにもカルト映画的というか、意味深なようで、よく分からないような……そんな会話シーンを冗長に感じることもあるだろう。

 しかし、すべてを理解・肯定する必要はない。というより、理解できなくてもいいし、肯定しなくてもいいのだ。バビーがよく分からないまま外の世界と繋がりを持ったように、観客もわけが分からないまま映画を受け入れてもいいのだ。動物が酷い目に遭うのが無条件にダメな方にはオススメできないのも事実だが、それはさておき、よく分からないまま受け入れるくらいの自由はあっていい。

 バビーが35年の監禁生活を経て外の世界に出てきたように、この奇妙で魅力的な映画は、数十年ぶりに劇場に出現し、上映される。だから是非とも、この機会に本作を受けとめてみてほしい。「この映画が何なのか?」を考える時間は、きっと忘れがたい経験になるはずだ。

■公開情報
『悪い子バビー』
10月20日(金)より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
監督・脚本:ロルフ・デ・ヒーア
出演:ニコラス・ホープ、クレア・ベニート、ラルフ・コッテリル、カーメル・ジョンソン
製作:ドメニコ・プロカッチ、ジョルジオ・ドラスコヴィック、ロルフ・デ・ヒーア
撮影監修:イアン・ジョーンズ
編集:スレーシュ・エイアー
音響デザイン:ジェイムス・カーリー
音楽:グレアム・ターディフ
提供:キングレコード+ハピネット・メディアマーケティング
配給:コピアポア・フィルム
1993年/オーストラリア=イタリア合作/114分/カラー/スコープ/原題:Bad Boy Bubby/R-18+
©1993 [AFFC/Bubby Productions/Fandango]
公式サイト:badboy-bubby2023.com

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