『いちばんすきな花』前評判を裏切らない繊細さに心を奪われる 4人の会話劇で得る気づき

『いちばんすきな花』前評判を裏切らない出来

 もともと1人でいるときの1人と。2人から1人になったときの1人と。3人以上といるときの1人と……。何気なく過ごしているけれど、私たちは直感的に感じている。そのどれもが同じ「1人」ではないということを。それをこんなにも言語化し、そして映像にしてくれるドラマと出会えたことに胸が熱くなった。

 10月12日よりスタートした木曜劇場『いちばんすきな花』(フジテレビ系)。昨年、人気を博したドラマ『silent』(フジテレビ系)のプロデューサー・村瀬健×脚本・生方美久の再タッグとあってオンエア前より期待が高まっていた本作だが、やはりその前評判を裏切らない繊細さで心を奪われた。

 今回描かれるのは、2人組が苦手な4人の男女の物語。昔から2人組を作ることができなかった塾講師のゆくえ(多部未華子)。そんな彼女にも中学生のころに塾で、なんでも話せる唯一の友達・赤田(仲野太賀)ができた。買ったLINEのスタンプを気軽に試し打ちできるくらい気のおけない間柄。だが、赤田が婚約者から「女友達と2人きりで会わないでほしい」と言われたことをきっかけに、「もう会わない」と“振られて“しまうのだった。同性だったら良かったのに。そうすれば誰にも咎められることもなく、この友情は永遠に続いていたはず。悔しさをこらえながらも赤田の幸せを願い、木村カエラの「Butterfly」を歌いながら赤田に手を振るゆくえの姿が切なかった。

 なぜ、男女の友情は成立しにくいのだろうか。それは、出版社勤務の椿(松下洸平)のケースを見るとわかりやすい。椿はまもなく純恋(臼田あさみ)と結婚をしようというタイミングで、彼女の男友達だった森永に奪われてしまったのだ。純恋も、もともとは純粋に友達のはずだったという。でも、そうではなくなってしまった。ゆくえと赤田、純恋と森永。2組の男女の友情の違いがどこで分かれてしまうのかは誰にも説明ができない。強いて言えるのは、純恋の椿への想いの部分だろうか。「俺のこと好きだった?」別れ際の電話で、椿がたまらずに聞いた質問。きっとそこで「好きだった」と言われれば、「いちばん好きな人」になれていたのだと思えたかもしれない。でも、返ってきたのは「いい人だなって」の言葉だった。それは昔から「2人組にならせてもらえなかった」椿をさらに深く傷つける。

 また、美容師の夜々(今田美桜)を取り巻く“友情“関係を見ても考えさせられる。職場の同僚・相良(泉澤祐希)から飲みに誘われて、友達のつもりで向かった夜々。だが、気持ちよく飲んだと思っていたところ、相良に友達以上の関係を期待されてしまう。勝手に盛り上がったのは相良のほう。しかし、「“友達“っていうの、自分が男と遊ぶ言い訳にするのよくないよ」なんて説教までされてしまう。もともと器量がよく、異性からもてはやされるため同性からの嫉妬も買いやすい夜々。そんな苦労をしてきた夜々が、男女の友情にはどちらかの「下心」があるに違いないと警戒せずにはいられないのも頷ける。

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