『らんまん』宮﨑あおい演じる藤平紀子がもう一人の主人公に 千鶴が思い返す万太郎の生涯
「次の方に渡すお手伝い、私もしなくちゃ」
そう言って槙野邸を訪れたのは、宮﨑あおい演じる藤平紀子。『らんまん』(NHK総合)第127話では、彼女が万太郎の娘・千鶴(松坂慶子)と共に万太郎(神木隆之介)の生涯を振り返る。
宮﨑はこれまで本作のナレーションを務めてきた。その彼女の語りがここにきて、記録のために日記から万太郎の行動を読み解いていた紀子の“作業過程”だったことに気付かされる。現在と過去を行ったり来たりすることで、万太郎の晩年がより立体的に感じられ、彼の功績が現在の世にあり続けていることが実感できる巧みな演出も素晴らしい。日記に向かってきちんと挨拶をする紀子は、万太郎と寿恵子(浜辺美波)のいなくなった世界の新たな主人公だ。もし生前に会えていたら、草花に向かって語りかける万太郎と気が合ったことだろう。
標本の整理を始める前に、いつどこへ採集に行ったか万太郎の動向を探り、地名を特定する。昔は同じような地名がいくつあっても、千鶴のように気づけないことがあった。名探偵・紀子のものの考えを通して、より地理の捉え方も近代的になっているのがわかる。時代は進み続けるが、万太郎が関東大震災に負けずに出した図鑑もまた、後世に向けて残り続ける。万太郎が亡くなってからの1年、何もできなかったと語る千鶴の感情を繊細な視線と表情で見事に表現した松坂慶子。「さぞ偉大なお方だったのでしょうね」と紀子に言われて、愉快な調子で「ダメなお父ちゃん!」とすかさず返す様子もかわいらしい。
「お父ちゃんはただ一生涯、植物を愛しただけなの」
田邊(要潤)や大窪(今野浩喜)、そして変わっていってしまった植物学教室の様子を見守ってきた私たちは、その“ただ愛しただけ”ということがすごく難しくて、大切なことだとわかっている。周りの人間を振り回し、家族を振り回してきた。それでも万太郎に関わる皆が、彼のことが大好きだった。
寿恵子は最初から晩年まで、万太郎に引けを取らない犬士として大冒険を繰り広げてきた。万太郎と暮らし始めた頃は(子供が生まれてからも)生活を切り詰めていた彼女が、最終的には広大な土地を所持してしまうのだから、本当にすごい。そんな寿恵子も、ついに史実のような病気の兆候が見えてきてしまった。『らんまん』を通して常に勇気を与えてくれた彼女に別れを告げる時間が来てしまうことが、今は何より寂しい。