『らんまん』寿恵子はなぜ万太郎を心から愛したのか 最終週前に描く意義があった関東大震災

『らんまん』寿恵子はなぜ万太郎を愛したのか

 渋谷はこの100年で大きく発展し、海外旅行で必ず訪れたい場所――とくにスクランブル交差点がその象徴になっている。ところが、寿恵子は当時、これからの渋谷にさっさと見切りをつけて、高額で店を売り、練馬の大泉学園に土地を買うのである。万太郎の植物研究には渋谷はふさわしくないと判断し、のどかで自然の多い大泉学園の、資料や標本をたくさん保管できる家でこれからを生きていこうとするのである。

 そして、先述した大畑の火消し。江戸期に江戸の総鎮守とされた神田明神のある神田を守ろうとしたことは、自分たちが愛し暮らしてきた江戸の街を終わらせない戦いである。新しいことがはじまってもいいけれど、そこに残りたい人の思いを否定はできない。下町に昔から住んでいる人たちには「江戸っ子」という矜持がある。さらに遡れば、京都のひとは東京に行くことを上京とは言わないと言われる。明治時代、天皇が京都から東京に移ったとはいえ、京都こそ都、という思いがあるからだと。

 文明や商業が発展した場所ばかりがすべてではないし、首都がすべてでもない。人にはそれぞれ、生きる場所がある。寿恵子は、時代や価値観が変わっても、万太郎の、この世にある植物をすべて詳らかにして世の中に伝えるという信念は変わらない。それはつまり、他者の大事なものを奪ったり、否定したりすることをしないこと。ひとりひとりの生き方を尊重し、明るく生きる。そういう万太郎の生き方を寿恵子は心から愛したのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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