『VIVANT』堺雅人の“まともさ”に裏切られる快感 別人格・Fは消えてしまうのか?
しかし、「人間の善悪を直感的に見抜く」と言われるバルカの少女・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)が医師の薫(二階堂ふみ)以外に久々に笑顔を向けたのが乃木だというのも頷けるほど、乃木自身はあまりに不遇の半生を辿っており、愛情に飢えているし、それを信じたいという気持ちが誰より強い。9.11(アメリカ同時多発テロ)を目撃したコロンビア大学在学中に「愛する家族を守るために戦う」と迷いなく戦地に赴く学友の姿に、自分には家族はいないが「日本を家族だと思って、日本のために戦おう」と思い立ち自衛隊に入隊したというエピソードには胸が詰まるものがあった。
そして同じように大切な家族を奪われ、家族を守れなかった罪滅ぼしのためにも孤児を守ることを自身の生涯をかけての役目だと思い、その資金を得るためにテロ組織“テント”を発足したノゴーン・ベキ(役所広司)は、別班の最終標的であり、乃木の実の父親でもある。そんな壮絶な出自や大きな宿命を背負いながらも、あんなふうにヘタレな一介の商社マン然としていられるのも、やはり堺の“まともさ”と“狂気”の両側面を内包できる底知れなさゆえだろう。
我々視聴者だって、任務遂行のため散々残忍なやり方でターゲットを追い詰めてきた乃木の姿を目の当たりにしても尚、“薫とジャミーンが一緒にいる姿を見るだけで心が温かくなる”という乃木の言葉も、Fに向かって放った“息子だとわかれば愛してくれるかもしれない”という悲痛な叫びにも嘘はないと思いたくなってしまう。常人にはできっこないミッションをこなしながらも、その中で誰よりもピュアに愛情を希求しているのが乃木だ。そんなとんでもない振れ幅を1人の人間の中に矛盾なく宿しながら見せる。黒にも真っ白にも染まることができず、どちらにも染まり切ってしまわない堺の無色透明さが光る。それは、家族を失い、息子と思しき子どもの死を知らされ無気力に彷徨うノゴーン・ベキの若い頃を演じた林遣都のあまりに綺麗な漆黒の目を思い起こさせた。
さて、Fの制圧も振り切って別班の任務のためにテントに潜入したことを自白した乃木。一体、この親子の劇的な巡り合わせ、悲運はどのような形を迎えるのか。どこかで乃木の中からFは消えてしまうのだろうか。“テント”の最終目的も、フローライトの存在を政府に密告した裏切り者の正体も、いよいよ全てが明らかになる。
■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
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