『VIVANT』が描く“帰るべき場所” 堺雅人演じる乃木が任務と肉親の情に引き裂かれる
『VIVANT』(TBS系)第9話は、ここだけ半沢直樹が帰ってきたようだった(以下、ネタバレあり)。テロ組織テントに帰順し、ノコル(二宮和也)の下で働くことになった乃木(堺雅人)。ノコルに指示されたのは無駄な経費の削減で、バトラカ(林泰文)から渡された帳簿を元に、テントの内情を財政面から探っていく。
なぜテントはバルカ北西部の土地を買い占めるのかという疑問に答えるため、リーダーで乃木の父親であるノゴーン・ベキ(役所広司)は、乃木たちを辺境の地へ連れ出した。そこで知らされたのは、地下200メートルに眠るフローライトの鉱脈だった。
中央アジアに位置するバルカが地下資源の豊富な国であることは、随所で触れられてきた。日本とバルカの友好関係であったり、ノコルが経営する「MURUUDUL(ムルーデル)」は資源開発会社で、別班の黒須(松坂桃李)の表の顔は地下資源を開発するエンジニアである。『VIVANT』で、地下資源は物語を動かすキーファクターである。
土地購入事業の最後の一押しのため、乃木は黒須が保有する企業の情報を利用し、信用取引で株式の売却益を得ようとする。チャートをにらみ、株価の動向を固唾を飲んで見守るシーンはまるで経済ドラマで、銀行そして証券会社を舞台にした『半沢直樹』(TBS系)シリーズの再来のようだった。
ベキの口から語られる前半生とテント誕生の経緯は、若き日のベキこと乃木卓役の林遣都の熱演もあり、肺腑をえぐるような悲しみと切実さをともなって観る者に迫ってきた。妻を失い、子と生き別れて生きる希望をなくしたベキが、仲間と出会い、幼子のノコルや小さいアディエルたち孤児を保護するために武器を手に取ったことが、後のテントにつながった。守るために、ベキはテロリストになったのだ。
全ての行動の出発点に悲しみがあり、やむにやまれない衝動に突き動かされるように、テントは傘下を拡大した。乃木もこのままテントの一員として、孤児救済のためのテロ組織に加担するかと思われた時、極秘裏に進めた土地購入が外部に漏れ、状況は一転する。築いた信頼は崩れ去り、乃木は裏切者のそしりを受けることにった。