引きこもりに光を当てる『転職の魔王様』 石田ゆり子が演じた大人のラブストーリー

『転職の魔王様』引きこもりに光を当てる

「はっきりわかった。もうあまり時間はないんだなって」

 『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系)第9話の主役は、石田ゆり子演じる「シェパードキャリア」社長の落合洋子(石田ゆり子)だった。来栖(成田凌)と千晴(小芝風花)をそっと見守る洋子はいつも微笑みを絶やさず、張り詰めた空気も洋子がいると自然とほぐれる。その洋子の秘密が明かされた。

 突然かかってきた電話。会話から漏れた「自殺」の二文字に笑みが消える。洋子が急いで向かった先は、高齢の夫婦が暮らす一軒家。駆け上がったドアの外から名前を呼んだ。

 内閣府の調査によると、引きこもりは全国で約146万人と推計されている。このコラムをご覧になっている方の中にもいるかもしれない。可視化されていないだけで、不登校や退職、人間関係の悩みから引きこもり状態になっている人は多くいて、それぞれの事情を抱えて日々を過ごしている。

 シェパードキャリア創業時から登録があり、洋子が担当するただ一人の求職者である五十嵐君雄(金子ノブアキ)。君雄は小学校の元教諭だった。まじめな君雄は生徒思いの優しい教師で、旅行会社の営業で小学校を訪れた洋子は、修学旅行の打ち合わせで君雄と親しくなる。親しみが好意へ変わるのに時間はかからず、2人は恋人同士になった。しかし、ささやかな幸せは、ある日突然奪われた。

 これまでの放送回を観ると、洋子は社員一人ひとりに目を配りながら、社長として要所で的確な助言を送ってきた。シェパードキャリアの風通しの良さは、間違いなく洋子のキャラクターによるものだ。洋子は個性的なアドバイザーたちの手綱を優しく握りつつ、転職業界全体を見渡しながら、働き方とキャリアをめぐって独自の見解を披露してきた。

 転職と引きこもりは近くて遠い概念だ。少なくとも、それらのベクトルは真逆である。かたや社会に活躍の場を求め、一方でつながりを断って社会から離れようとする。履歴書の空白と心理的な距離をキャリアアドバイザーが関与することで埋める試みは、現実に行われているが、第9話を観る限り、そのハードルは低くないと思われた。

 君雄が退職したのは教室内のいじめがきっかけだった。君雄がいじめをやめようと呼びかけたことで、いじめられていた生徒は孤立し、学校に来られなくなった。教師としての自信を打ち砕かれた君雄は、それ以来、家に籠って出てこなくなった。生徒の人生を壊したという自責の念とともに。大半の人はおかまいなしに自己都合で人生を進んでいくのに、一部の人は優しさから、あるいは共感力の高さゆえ気に病んでしまう。そのことを「過剰」「おおげさ」と指摘するのは簡単だが、身動きが取れない状態は実際になってみないとわからない。

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