『らんまん』亀田佳明“野宮さん”の苦々しくも美しい引き際 寿恵子の“新しい冒険”も始まる

『らんまん』野宮の苦々しくも美しい引き際

 『らんまん』(NHK総合)第113話で、万太郎(神木隆之介)は大学に辞表を出した野宮(亀田佳明)に会いに行った。

 万太郎は野宮に「去るべきお人ではない」と言葉をかけるが、野宮は「生命の神秘は、最初からここにある。俺はただ、それを見たってだけですよ」と答えた。普段通りに穏やかな口ぶりで話す野宮だが、自身の経歴によって成果が認められないことへの悔しさはあるはずだ。だが、平常心を保つような野宮の佇まいからはその悔しさ以上に感謝の意が感じられた。

 自責の念にかられる波多野(前原滉)に、野宮は「君が見たいと願うものを俺も見てみたかった。それだけだったんだよ」と優しく声をかけ、「ここまで連れてきてくれて、ありがとう」と言った。植物学者としての引き際は苦々しいものとなったが、波多野や万太郎の心に、画工であり植物学者である野宮の姿はしっかりと刻まれたことだろう。

 大学を辞めた野宮は東京を離れる前に万太郎が暮らす長屋を訪れる。石版印刷で使う石版石を前に感嘆の声をあげ、思わず触れてしまう野宮の姿から、彼の図画に対する関心の深さがうかがえる。石版石に描かれた画を恭しくなぞる指先が印象的だった。野宮を演じる亀田の演技からは、現実的な一面を持ちながらも、植物画を描くことや研究に生真面目に向き合い、静かな情熱を注ぐ彼の人柄が感じられた。野宮の核心をつくような言動や、物静かながらも感情があふれ出す場面などは心を打つものだった。東京を離れる野宮だが、どこかでまた万太郎たちとめぐり会うことを期待してやまない。

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