“プリキュアの定義”の変遷と“そこに込められたもの” シリーズ20周年と映画最新作に寄せて

『プリキュア』シリーズ20周年を考える

「女の子がなるもの」から「誰もがなれるもの」へ

 もうひとつ、「プリキュアの定義」の変遷をたどる上で重要なポイントのひとつとなるのは、『映画 プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』(2012年)のキャッチコピーだった「女の子は、誰でもプリキュアになれる!!」だろう。

 『映画 プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』ではプリキュアたちの活躍が周知される世界で暮らし、プリキュアに憧れる内気な女の子・坂上あゆみが、プリキュアたちに勇気を貰い、自身もキュアエコーに変身。世界の危機に立ち向かう物語が描かれた。

 「普通の女の子たちが戦士となって戦う」という物語がシリーズを重ねたことで、「勇気や心の強さを持った選ばれし者がなれるもの」といった印象が色濃くなったプリキュアを、改めて「女の子なら誰もがなれるもの」としてメタ的な設定を用いて示した本作。シリーズファンの背中を押すかのようなメッセージは感動的で、同時に前述のコピーの印象もあって、長らく「プリキュア=女の子」という定義を強化する作品でもあったと言える。

 『ハピネスチャージプリキュア!』(2014年)では「世界各国にプリキュアが居る」というシリーズでも異例の設定が用いられたが、やはり各国のプリキュアたちは全員が女性だったと思われる。

【HUGっと!プリキュア】オープニング主題歌 「We can!!HUGっと!プリキュア」

 この定義に変化をもたらしたのは2018年の『HUGっと!プリキュア』で、若宮アンリが男の子としてはじめてキュアアンフィニに変身したことが話題になったのを知っている人は多いと思う。本作終盤では、若宮アンリだけでなく「誰もがプリキュアになれる」ことを示唆。いずれもいわゆるレギュラーキャラクターではなかったものの、プリキュアであるために、必ずしも女の子である必要はなくなった。

定義が広がった理由は「プリキュア的精神の実践」?

 こうして振り返ってみると、異世界出身であるキュアスカイ/ソラ・ハレワタール、我々の世界のソラシド市で暮らす(そして異世界出身者を祖母に持つ)キュアプリズム/虹ヶ丘ましろ、妖精の男の子であるキュアウィング/夕凪ツバサ、18歳の新成人であるキュアバタフライ/聖あげはの4人で構成された『ひろがるスカイ!プリキュア』のチームは、20年間の歴史の中で「プリキュア」が少しずつその定義を広げていった上で実現されたものであることが分かる。そしてこの定義は、これからもさらなる広がりを見せていくのだろう。

「ひろがるスカイ!プリキュア」オープニング主題歌「ひろがるスカイ!プリキュア ~Hero Girls~」(ノンテロップver)

 女の子の憧れに寄り添い、「普通の女の子」の物語としてスタートした『プリキュア』シリーズ。その定義を少しずつ広げていった背景には、時代の変化や『プリキュア』自体の知名度の変化も大きく影響しているのは間違いないだろう。しかし、それらを包括して「プリキュア的精神の実践」と捉えることもできるのではないかと思うのだ。

 「生まれたときに割り当てられた属性」によって「なれるもの」が定められてしまったら、それは悲しい。そしてもしプリキュアたちだったら、境遇が違う相手に対してだって、その未来を前向きに祝福するだろう。

 プリキュアという存在自体がより多くの人に開かれ、憧れられる存在になっていくことは、プリキュアたちが作中で発するメッセージを制作陣自身も受け止め、感化されていった中での帰結という面もあるのではないか。

 もちろんこれからも『プリキュア』シリーズは女の子のための作品であり続けてほしい。そのためにも、「大きく取り沙汰される理由のないプリキュア」も等しく大切な存在であることを忘れてはならない。

 一方で『プリキュア』を観て育った世代が、性別や出自を理由に互いの可能性を否定せずに生きていけたのなら、それは翻って、女の子自身の可能性をも広げることになるのではないだろうか? そんなふうに思わずにはいられない。

■公開情報
『映画プリキュアオールスターズF(エフ)』
9月15日(金)公開
出演:関根明良、加隈亜衣、村瀬歩、七瀬彩夏、古賀葵、菱川花菜、茅野愛衣、高森奈津美、ファイルーズあい、日高里菜、悠木碧、三森すずこ、白石晴香、小原好美、本泉莉奈、藤田咲、早見沙織、嶋村侑
主題歌:いきものがかり「うれしくて」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
オープニングテーマソング:石井あみ、Machico「For “F”」
作詞:青木久美子
作曲・編曲:森いづみ
原作:東堂いづみ
監督:田中裕太
脚本:田中仁
音楽:深澤恵梨香
総作画監督・キャラクターデザイン:板岡錦
美術監督:林 竜太
色彩設計:清田直美
撮影監督:大島由貴、高橋賢司
製作担当:吉田智哉、本田竜馬
映画プリキュアオールスターズF製作委員会:東映アニメーション、東映、ABCアニメーション、バンダイ、ADKエモーションズ、マーベラス
配給:東映
©2023 映画プリキュアオールスターズF製作委員会
公式サイト:2023allstars-f.precure-movie.com
公式X(旧Twitter):@precure_mov

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