忽那汐里、菊地凛子も出演 SFドラマ『インベージョン』の特殊性と現実社会に通じるテーマ

SFドラマ『インベージョン』の特殊性

 では、本シリーズ『インベージョン』を貫くテーマとは何なのか。それは、それぞれの登場人物たちが、一様に自分の存在意義を揺るがされているといった点だ。夫の浮気によって、家族の幸せを大事にしてきた、これまでの人生が否定されたかのように感じる人物。同性の恋人を愛したことで、閉鎖的な社会の価値観に苦しめられる人物。戦場の任務のなかで本来の人間性を壊されてしまった人物。そして、過去の出来事への悔恨や持病によって自信が喪失しつつある人物……。

 それらの登場人物たちは、侵略者による地球的な規模の危機に直面することによって、逆に強い目的を見つけることになる。それは裏を返せば、このようなことでもなければ、現代の社会に住んでいる人々は、自分の存在意義が見つけ難い状況にあることを指し示しているのではないか。そして同時に、近年われわれの生きる、極端な経済格差のある世界は、多くの人々が目的を失うほどの余裕すら失いつつある状況にあることも示唆しているように思える。

 アフガニスタンのパートでは、アメリカ軍の兵士たちが、作戦の地に向かう車内で、ディズニーのアニメーション映画『モアナと伝説の海』(2016年)の劇中曲を合唱するシーンがある。屈強な男たちが少女の自分探しをテーマとした歌詞を口ずさむところが微笑ましい場面だが、「島ではみんな自分の役割を持っている きっと私も」という部分をとくにリフレインするのは、やはり本シリーズが、本質的に自分自身の役割を探して道を見つけようとする物語であることを暗示していると考えられる。

 シーズン1では、忽那汐里演じる女性ミツキ・ヤマトが、寺院で僧侶と過ごす場面が印象的だ。耐えきれぬ心の痛みに苦しめられている彼女は、“悟り”に至るということはどんなことなのかを質問する。即身仏となった父親を持つ僧侶との対話は、東洋哲学的な視点から、自分探しの道を見つけようとする試行錯誤でもある。ここにきて、本シリーズがいろいろな場所を舞台にしている意味が出てくるといえるだろう。そして、このような描写こそが、本シリーズをスリルを楽しむ以上のものにしているといえるのである。

 さて、シーズン2では、再び人々は敵との戦いや、荒廃した世界のなかに放り出され、さらにそれぞれの登場人物たちが、またしても極限状況のなかで自分自身の心理と向き合わざるを得なくなる。

 アメリカやイギリスのエピソードで登場していた子どもたちは成長し、物語を能動的に動かしていく力を獲得してきている。エイリアンとの戦いによる荒廃した社会では、何よりも生き抜くための工夫が必要となる。助け合うこと、知恵を出し、精神的にも支え合うことが求められる。成長した子どもたちの、このような工夫が、停滞した事態を前に進めていくことになるのだ。

 これは、戦争や紛争がある地域はもとより、近年の自然災害における被害や、新型コロナウィルスのパンデミックに対する自衛、犯罪の増加や、福祉政策の縮小など、自分自身を自分で守らざるを得なくなってきた、われわれの社会とリンクするところがあるといえよう。シーズン1は、コロナ禍に見舞われるなか、一年もの長期にわたって撮影が続けられたというが、シーズン2は、まさにそんな環境そのものが作品に本格的に反映しているといえるだろう。

 何のために生きるのか、何をするためにリスクを払うのか。「ポストアポカリプス」の世界を生きる人々は、常にその選択を迫られている。それは多かれ少なかれ、われわれの生きる環境にも繋がっているところがある。だからこそ、本シリーズで描かれる極限状況は、まさにわれわれの物語を、強調し凝縮したものだといえるのではないか。

 そして、人類とエイリアンとの狭間で、両者の触媒のような役割を引き受けることになるミツキの状況は、物語全体のなかで、とくに重要になってくる部分だと思われる。「エイリアン」とは、同名の映画シリーズの影響もあって、“異星人”という意味で使われることがあるが、もともとは外国人や外からやってきた人のことを指す言葉だ。

 価値観や特徴の異なる存在を、どのように理解するか。どのようにコミュニケーションをとるのか。これまで以上に、多様な人種との出会いが増え、性的マイノリティが段階的に認知されるようになってきた社会で、それぞれの立場や考え方を持った人々が、どう歩み寄ることができるのか、その可能性が本シリーズで示されることになるのかもしれない。

 いずれにせよ、『インベージョン』は、エイリアンの侵略という極限的な状況を描きながら、われわれの社会、われわれの生活の“いま”を表現したものになっていることは間違いない。だからこそ、この先の展開がどうなるのか、気にならざるを得ないのだ。

■配信情報
『インベージョン』
Apple TV+にて配信中
写真提供:Apple TV+

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