『D.P.』シーズン2が感動を誘う理由 “男らしさ”を手放し、互いに寄り添える社会のために

『D.P.』シーズン2が感動を誘う理由

 優れた作品の続編や第2作目というものは、しばしば失敗すると言われている。前作が優れていればいるほど、期待感が膨らんだ大衆のジャッジは厳しくなり、制作者にとって大きなプレッシャーとなる。しかしこのドラマには、そんな“シリーズ二作目のジンクス”は無縁だったようだ。Netflixオリジナルドラマシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』のことである。

 『D.P. -脱走兵追跡官-』は、ほぼすべての韓国人男性にとって果たすべき義務である兵役を舞台にしたドラマだ。青年アン・ジュノ(チョン・ヘイン)が、軍隊から脱走した兵士たちを追跡し連れ戻す任務を担う軍務離脱逮捕組、通称D.P.に配属されて活躍する姿を描いている。手がけたハン・ジュニ監督は、暗黒街を牛耳る“オンマ”という顔役を中心に女性をエネルギッシュに映し出したデビュー作『コインロッカーの女』(2016年)に始まり、生々しいバイオレンス描写を社会への問題意識で支えるアプローチで知られたクリエイターである。キム・ボトンによる人気ウェブトゥーン『D.P. 犬の日』を原作に、脚本から共同で練り上げたシーズン1は、韓国軍の内部で実際に起きた事件を想起させる真実味の強いストーリーライン、暴力をエンタメではなく社会的なメッセージを持たせた真摯な演出で記憶に残る傑作ドラマに数えられるようになった。父の家庭内暴力に苛まれる家庭に育ったジュノと、ユーモアたっぷりで自由な性格の先輩ハン・ホヨル(ク・ギョファン)の絶妙なコンビネーションもたちまち話題となり、2022年の第58回百想芸術大賞で、作品賞などTV部門三冠を獲得した。

 続編が成功するための条件のひとつに、前作と同じキャストやスタッフが揃うことが挙げられる。たしかにシーズン2は、主演のチョン・ヘインとク・ギョファンはもちろん、若き2人のD.P.を導く上司、パク中士役のキム・ソンギュンや、友情出演ながら鮮烈な印象を残したソン・ソックなど、シーズン1の俳優が勢揃いし、世界中のファンが愛した要素を余すことなく見せてくれている。そして本作が高い完成度を誇る要素は、それだけではない。ハン・ジュニ監督が、物語のメッセージ性をさらに高め、ドラマの世界をアップデートさせたからだ。

登場人物の真摯な感情が伝わるアクション

 シーズン1の最終話では、陰湿で壮絶な暴力を受けて脱走した兵士ソクポン(チョ・ヒョンチョル)が、加害者たちへ復讐を果たしたのち、駆けつけた軍隊の前で拳銃自殺を図る。ソクポンの友人で、他の兵隊から暴力を受けていた兵士キム・ルリ(ムン・サンフン)は、ソクポンの事件に触発されるように宿舎で銃撃事件を起こす。

 そうした前シーズンの衝撃的ラストに続くシーズン2第1話(クレジットは「第7話」とされている)は、陸軍一等兵となったものの訓練で命令違反を犯し、廃級処分となり雑用ばかりしているジュノが、同僚から嫌がらせを受けるシーンから始まる。バディを組んでいたホヨルは、ソクポンの事件をきっかけに心を病み、失語症にかかっていた。ソクポンの「暴力に直接加担した者だけでなく、見て見ぬふりをした傍観者もまた同じだ」という言葉に、ジュノもホヨルも強く打ちのめされていた。

 だが同じように起きたキム・ルリの事件をきっかけに再びD.P.としてタッグを組んだ二人は、今度こそ傍観者にならずにルリを救おうと奮闘する。その姿が特に象徴的に表れているのが、ジュノとホヨルのアクションシーンだ。

 ルリの事件を含む機密情報が入るUSBの内容を見たジュノは、真相を暴くために軍隊から脱走する。第5話では、追っ手とジュノが列車内で格闘するシークエンスがあるが、ここでのアクションについてハン・ジュニ監督は「派手さではなく、必死さが伝わるようにしました」と述べている(※1)。父親の家庭内暴力に抵抗するためにボクシングを習得したジュノにとって殴り合いは造作のないことでもあるが、このシーンでは華麗さよりもがむしゃらに立ち回っている印象がある。“見せる”アクションではないからこそ、ジュノが真摯な思いで行動していることが分かる。

 ホヨル役のク・ギョファンにも同じことが言える。第2話では、銃撃事件で死者を出し、軍隊に囲まれ窮地に立たされたルリを助けようと、ホヨルはタブレットを使い現場の映像を生配信し始める。「すまなかった」と絞り出したその声の、か細い中にある芯の強さが心を揺さぶるシーンだ。力よりも機転で相手を制することが多い彼のファイトスタイルは、パワープレイとはほど遠い。時に滑稽なくらい泥臭く、小柄な体で転げまわりながら相手にくらいつき動きを封じようとする。思わず目を背けたくなる厳しいシーンの多い『D.P. -脱走兵追跡官-』で、ホヨルは息抜きのような存在であるとともに、“誰かを救うために行動する”作品の根幹にもかかわるキャラクターなのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる