『君たちはどう生きるか』木村拓哉は初見で気付けない? キムタク感のない本物の演技力

 しかし、今回はどうだろうか。大前提、特別出演ということもあるが、木村が演じる勝一は主役でなければ、カッコいい見せ場があるキャラクターでもない。キムタク感でいえば、ほぼゼロである。それでも、勝一には妙な存在感があった。その正体は「この人は本当にいるのだろう」というリアリティだろう。難解なストーリーの中に、個性の強すぎるキャラクターが多数登場するわかりにくい物語の中で、「彼だけは行動原理を理解できる」と強く思った。

 勝一は主人公の父であり、息子である眞人を本気で愛している。しかし、「眞人の理解者でありたい」という強い想いとは裏腹に、行動はいつも空回るばかり。根はいい奴なのに思慮が足りない感じや、本質で求められていることを理解できていないトンチンカンな雰囲気に「こういう人ってどのコミュニティにも1人はいるような……」という既視感を覚えた。そんな勝一が登場するたびに流れる、思春期を迎えた眞人との“分かり合えていない”空気の生生しさも尋常ではない。

 しかし、そういう人間のパーソナルな部分をリアルに想起させる演技力こそ、役者としてのブランド力もキャラのかっこよさも越えた「本物」なのではないか。年齢を重ね、日本の俳優界ではレジェンド枠に入るような役者だからこそ演じられる、“普通”の精度の高さが本作の木村の演技の中に眠っている。『君たちはどう生きるか』におけるキムタクらしさとは、時折きらりと光る、長年じっくりと研ぎ澄まされた演技力の牙なのかもしれない。

 冒頭に戻ろう。『君たちはどう生きるか』のラスト、エンドロールに流れた木村拓哉の名前を見て、作品に登場したキャラクターを一通り思い出そうとするも、どのキャラクターにも“キムタク”の面影は残っていなかった。だが、それで良い。“キムタクがいない”ことこそ、本作における木村の声優としての成功を証明しているのだから。

参照

※ https://twitter.com/JP_GHIBLI/status/1377963478204346371

■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
主題歌:米津玄師「地球儀」
製作:スタジオジブリ
配給:東宝
©2023 Studio Ghibli

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