『君たちはどう生きるか』菅田将暉の“カメレオン俳優”ぶりに脱帽! 声優業でも新境地へ
スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』のポスタービジュアルを見て、まさかこのふてぶてしい鳥の声を菅田将暉が演じるとは誰が予想しただろうか。
エンドロールにくっきりと刻まれた“菅田将暉”の名前を見ても、役柄が明記されていなかったため、正直なところ菅田が何の役を演じていたのか迷ってしまった。それくらい、『君たちはどう生きるか』の菅田の演技は、覗き屋のアオサギとしてアニメーションに溶け込む演技だった。
菅田将暉が本作で演じた「アオサギ」は、鳥のように見せかけて、中身は中年の小男という何とも掴み所のない役柄だ。紳士な敬語を使ったかと思えば、主人公の眞人を茶化すかのような言葉遣いで挑発的な態度をとったりもする。結論から言ってしまえば、とにかく“よくわからない”キャラクターなのだが、この意図的な「わからない」を作り出す菅田の演技力は今までのキャリアの中で培われてきた部分でもある。
菅田といえば、出演作のジャンルに縛られない役柄に深く潜った演技が印象に残る。『帝一の國』や『セトウツミ』のようなコミカルで男同士の友情を表現した作品もあれば、『花束みたいな恋をした』『溺れるナイフ』などで理想の恋人として登場した。さらには『キャラクター』や『あゝ、荒野』ではシリアスな表情で、人間の暴力的な一面も垣間見せる。
このような過去のキャリアを振り返れば、菅田が“カメレオン俳優”と呼ばれる理由も非常によく理解できる。菅田が持っているのは、菅田本人ではなくそのキャラクターとしてのありのままの人生を映像に刻む演技力だ。どんな役柄にでも深く潜り込むこの演技力の高さを考えれば、唯一事前に発表されていたビジュアルイメージでもある、重要なアオサギ役に菅田が抜擢されたのも不思議ではない。
繰り返しにはなるが、今回のアオサギというキャラクターは“わからない”キャラクターであり、物語としてもそうであるべき役柄だったように感じている。物語序盤から強烈なインパクトを残したアオサギの解釈に幅があるからこそ、作品全体が面白くなるような構図のようにも捉えられるのではないか。その点で菅田の声の演技は、柔軟なゆえに「観る人によって解釈が変わるアオサギ」にぴったりとハマっていた。一方で、鳥であり小男でもある謎の存在として、声の印象でアオサギに固定的なイメージを与えないというのは、至難の業であるようにも思う。