『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は事実上の1作目? マイケル・ベイへの愛と脱却
そしてお話の方は、大人のモラトリアムものになっている。人生に行き詰まり、くすぶったまま道を踏み外しそうな青年が、ちっぽけながらも正義感に目覚め、世界を救うべく奮闘する中で、自分が進むべき道を見つける物語だ。監督を務めたスティーヴン・ケイプル・Jr.は『クリード 炎の宿敵』(2018年)でも堅実な演出手腕と、いろいろと上手くいっていない家族の微妙な空気感を丁寧に描いて見せた人物。今回もその手腕で堅実な仕事をしつつ、一方でマイケル・ベイ監督への愛もふんだんに盛り込んでいる。主人公の乗るポルシェはベイの『バッドボーイズ』(1995年)からの引用と公言し、劇中のロボット同士の残虐ファイトはベイの人体破壊の系譜にあるのは間違いない。特にオプティマスプライムことコンボイ司令官は、過去最高の残虐ファイトを見せてくれる。今回から登場のビーストたちも、これが驚くほどカッコいい。ゴリラをカッコよく描かせれば、アメリカ人の右に出る者はいないのではないか? ついでに言うと90年代のニューヨークが舞台ということで、当時のイーストサイドのラップが大量に流れるのも嬉しいところ。あの頃のラップ好きなら、一種の音楽映画としても楽しめるかもしれない。
『トランスフォーマー』という金字塔が出来上がったのは、マイケル・ベイのムチャクチャさのおかげである。しかし破天荒なパワーが必要な時もあるが、それだけでは辿り着けない場所があるのも事実だ。ベイがその剛腕で切り開きまくって、良くも悪くもペンペン草一本残さず爆破した跡地を、『バンブルビー』が耕したとすれば、本作はそこにしっかりとした木を植えつけた、植樹のような映画とも言える。観ているあいだはひたすら楽しく、そして終わった後には『トランスフォーマー』シリーズの今後が楽しみになること請け合いだ。丁寧かつ真摯な仕事が光る、まさに夏にピッタリの娯楽作である。
■公開情報
『トランスフォーマー/ビースト覚醒』
全国公開中
監督:スティーヴン・ケイプル・Jr.
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、スティーヴン・スピルバーグ、マイケル・ベイ
出演:アンソニー・ラモス、ドミニク・フィッシュバック
吹替キャスト:中島健人、仲里依紗、玄田哲章、子安武人、藤森慎吾、高木渉、柚木涼香、本田貴子、ファイルーズあい、武内駿輔、飛田展男、三宅健太
配給:東和ピクチャーズ
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