『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の驚くべき挑戦 描かれたブルックリンのリアル

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の挑戦

 スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮として参加、マイケル・ベイ監督が10年の間に5作もの作品を送り出し、さらにスピンオフも製作された、超大作実写映画シリーズ『トランスフォーマー』。そんな、いろいろな意味で大きな足跡を残してきたシリーズが一新され、異なるキャストと物語による、新たな第1作として企画された『トランスフォーマー/ビースト覚醒』が公開された。

 本作は、トランスフォーマーのお馴染みの面々、オプティマス・プライムやバンブルビーらに加え、1990年代後半のTVアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』の内容を基に、ワイルドな動物に変形する金属生命体らが地球の危機を救う戦いに加勢するといった内容となった。

 そのような説明を聞くと、子ども向けの要素が強くなったのではと想像してしまうが、じつはこの作品、これまでよりも社会の問題にフォーカスした硬派な描写が見られるほか、とりわけ1990年代に思い入れのある観客におすすめできる、大人が楽しめる一作に仕上がっているのだ。ここでは、本作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』で、何が描かれたのかを解説していきたい。

 実写映画『トランスフォーマー』シリーズは、CGアニメーションを駆使した大作映画『ジュラシック・パーク』シリーズの技術を応用し、さらなるド迫力の映像を提供するアトラクション性が話題となっていた。シャイア・ラブーフ主演作では青春と若者の成長を描き、マーク・ウォールバーグ主演作では家族の絆が描かれたが、基本的には、人類に味方する正義のロボット生命体オートボットたちが、悪の侵略者の手から地球を守り、リーダーであるオプティマス・プライムが締めのセリフを発して幕を下ろすという点は、ほとんど変わっていない。

 つまり、物語の入り口はバリエーションがあれど、結局はワンパターンといえる展開が用意されているのである。とはいえ見方を変えれば、第1作からすでに、黄金パターンといえる王道の枠組みを作り出していたともいえるのではないか。巨費を投じている以上、そんな成功パターンを捨てて、おいそれと変化球を投げるわけにもいかないのである。比較的製作費を抑えたスピンオフの『バンブルビー』(2018年)は例外として、製作側が新たなシリーズとしたい本作もまた、王道路線は踏襲せざるを得ない。

 だが本作は、その義務を果たしたうえで、驚くべき挑戦にも打って出る。それは、中盤までのニューヨークを舞台にしたパートの内容を、およそ『トランスフォーマー』とは考えられないほどに、平凡な人物たちのリアルな物語で占めたことだ。

 主人公ノア・ディアスは、ニューヨークのブルックリンに住む、プエルトリコ系の青年。彼は軍を除隊したあと、母親や持病を持つ弟のために就職先を探して会社をまわっているが、信用を得られないことでうまくいかず、生活は困窮したままだ。追いつめられた彼は、高級車を窃盗するという犯罪に手を貸す決断に悩まされてしまう。もちろん、できることなら誰もがそんな罪を犯したくはないだろう。だが、貧困や差別という原因によって、犯罪が生み出されてしまうのが現実なのも確かなのである。ノアを演じるアンソニー・ラモスは、役柄と同じく、ブルックリン出身のプエルトリコ系俳優だ。リン=マニュエル・ミランダから、映画版の『イン・ザ・ハイツ』(2021年)の主役に抜擢され、映画界で大きく脚光を浴びるようになった。そのイメージは、本作にも色濃く投影されていると考えられる。

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