『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』徹底考察 第1作との深い関係
また、『大いなる別れ(Dead Reckoning)』(1947年)は、本作と同じ原題であることから、影響が噂されているノワール作品ではある。大きな影響があるとはいえないが、パラシュートが印象的に用いられていることや、それが愛の表現に繋がっていること、そして主演のハンフリー・ボガート、相手役のリザベス・スコットが示すように、ハリウッド黄金時代を彷彿とさせる、スター俳優の魅力を際立たせるような、昔ながらなスタイルが強調されている部分については共通点があるといえる。
忘れてはならないのが、前作以上にシリーズ第1作『ミッション:インポッシブル』にオマージュを捧げていることだ。第1作のクライマックスにおいて、キトリッジとマックスが高速鉄道「TGV」の車内で顔を合わせるのと同様、27年の時を経て、今度はクラシカルな蒸気機関車のなかで、キトリッジと、マックスの娘であるホワイト・ウィドウが対面する。こういった趣向こそマッカリー監督の真髄であるだろう。
なぜマッカリー監督がこれほど第1作にこだわるのかといえば、その監督ブライアン・デ・パルマ自身が『めまい』などを撮った、「サスペンス映画の帝王」アルフレッド・ヒッチコックの崇拝者であり、オマージュを繰り返してきたという作家性を持っているからであり、第1作にももちろんその影響が随所に反映されているからだ。つまり、『ミッション・インポッシブル』シリーズの源流にあるのが、ヒッチコックの映画芸術なのである。
このようなヒッチコック的テーマや要素を背景に置きながら、同時にヒッチコック作品を偏愛する先達としてのデ・パルマ監督を、前作や本作においてさらにオマージュを捧げているという、複雑かつ、ある意味変態的なムードが存在していることが、マッカリー監督によるシリーズの特徴であり、本作の全体にもみなぎる、異様な印象の正体なのだ。
また、第1作がサスペンス映画として最も斬新で画期的だったのは、回想シーンにおいて、そこで“語られる言葉”とイメージされる映像がズレているという、娯楽映画にはあるまじき……とすらいえるほどに難解な表現だった。本作では、さすがにそこまで複雑ではないが、ミッションの計画が「フラッシュ・フォーワード」のようなかたちで表現され、それが現実としての場面なのか、想像上のものなのか、意図的に混乱させる瞬間がある。このような試みもデ・パルマ監督から受け継ぐ、シリーズならではのサスペンス的な醍醐味である。
既存の線路を用いて、新たに製造した列車の車両を走らせ、実際に高所から落下させるといった、耳を疑うようなクライマックスシーンの撮影がおこなわれたことも言及せざるを得ない。このような凄まじいスケールでさまざまな意匠が凝らされた作品が、後付けの脚本で構成されているという前衛性も、最大限に評価したいところだ。
マッカリー監督としては、今回独自の試みとして、ロマンスの要素を増やしていると語っているようだ。とはいえ、前2作もイルサ・ファウストの物語を『カサブランカ』に結びつけ、その愛情に溢れた人間性を表現していたように、これまでもロマンティックな要素は多分に描かれていたといえる。それでもそう言うというのは、本作でイーサンとイルサの関係に決定的な展開が起きることからきているだろう。
第1作において、列車からヘリコプターへのジャンプからの一連のアクションで、イーサンがわざわざ「レッドライト、グリーンライト」と、裏切りの犠牲となった仲間のセリフを叫んでいたのは、イーサンの仲間に対する感情の発露だったと考えられる。本作では、そんな仲間を思うイーサンの感情が、無謀なバイクジャンプに挑もうとするエモーションへと意味づけられている。
過去、イーサンは数度愛する女性を失い、列車のなかでも救えなかった命がある。本作はそんなシリーズの歴史をベースに、荒唐無稽ながらその感情が報いられるシーンがある。そして、そのひたむきさは仲間の未来へと繋がっていく……このシリーズ全体を俯瞰した脚本を、辻褄合わせで書き上げることができてしまうというところが、映画の面白いところではないだろうか。
さて、『PART TWO』では、果たしてどのようなアクション、どのようなテーマ、そしてロマンスの行方を示すのかが気になるところだ。本作の公開をもって、間髪入れずに撮影がスタートされるという予定が立てられていた次作ではあるが、ハリウッドではちょうど俳優労働組合(SAG-AFTRA)」、「全米脚本家組合(WGA)」によるストライキが開始されたところ。この影響で、次作の撮影は大幅に遅れる可能性がある。とはいえ、映画はあくまで働く人たちの環境が守られてこそ楽しめるもの。公開までの日々を待ちながら、「デッド・レコニング(推測航法)」の行き先をあれやこれやと“推測”するのも楽しいものだ。
■公開情報
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
全国公開中
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ヴァネッサ・カービー、ヘンリー・ツェーニー、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフ、イーサイ・モラレス
配給:東和ピクチャーズ
原題:Mission: Impossible – DEAD RECKONING PART ONE
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
公式サイト:missionimpossible.jp