『らんまん』前原滉と亀田佳明の情熱が進化に繋がる 万太郎の迷惑な側面も
進歩は時に残酷だ。光あるところには影もある。『らんまん』(NHK総合)第79話では、万太郎(神木隆之介)による『日本植物志図譜』発行のその後が描かれた。
万太郎の『日本植物志図譜』は各方面に反響を呼んだ。精緻な図版はそれまでの植物画の概念を塗り替えるもので、植物学を専門とする人々は完成度の高さに目を見張った。博物館の野田(田辺誠一)と里中(いとうせいこう)は「その種の全体像を十分に表している」「植物の生きる時間を閉じ込めている」と、万太郎の真に迫った筆致に驚嘆する。植物愛にあふれる2人は「あの子がここまで描くようになっていたとは」と喜んだ。
万太郎の成功を複雑な思いで見守る人もいた。田邊(要潤)は、画工の野宮(亀田佳明)を「よくできた絵画だ」と皮肉を込めて評する。万太郎の植物画は植物学のスタンダードを更新するもので、「今後の植物画の水準になる」ものだった。もし野宮が今の仕事を続けたければ、万太郎と同じレベルの図版を描かなければならない。それができないなら「仕事は終わりだ。福井に帰れ」と告げた。
田邊の態度を残酷エピソードとして片付けることはできない。万太郎が『日本植物志図譜』で達成したことは、日本の植物学全体を押し上げる意義があった。一方で、そこから取り残される人も出てくる。それが野宮であり、万太郎を認めざるを得なかった田邊も心中ひそかに焦りを感じていたと推察する。そしてもう一人、忸怩たる思いを抱く人物がいた。
親友の藤丸(前原瑞樹)が休学し、自身の今後を考えざるを得ない波多野(前原滉)は喪失感を持て余していた。そこに現れたのが野宮。あらたまって「顕微鏡で植物を観察する方法を教えてくれませんか?」と波多野に頼み込んだ。