『タイタニック』に投影された世紀末の空気 “世界の終わり”は『エヴァ』との共通点も

『タイタニック』に投影された世紀末の空気

 タイタニック号は巨大な豪華客船で、劇中ではローズたち上流階級が泊まる1等船室とジャックとその仲間が泊まる3等船室の往復によって貧富の格差が強調される。つまりタイタニック号という船内自体が、貧富の格差が広がっている当時の社会の反映となっており、物語前半は階級の違うジャックとローズの生きる世界の格差を描くと同時に、格差がありながらも惹かれあっていく二人の姿が描かれる。そして2人の恋愛感情が盛り上がりピークを迎えた時点でタイタニックが氷山に激突して、船が沈んでいく混乱が描かれる。

 つまり、本作におけるタイタニック号の沈没とは「世界の終わり」の暗喩なのだが、沈没する船(世界)の中で盛り上がる男女の恋愛劇だと捉えるならば、前述した『エヴァ』やその影響下にあるセカイ系と呼ばれる日本の漫画やアニメと同じ構造にも見える。

 しかし、大きく違うのは2人の結末だろう。ジャックは命を落とすがローズは生き残り、上流階級の娘として結婚するしかなかった令嬢という立場から解放されて自由な生を謳歌する。つまりジャックと出会ったことで自立した女性となるのだ。その意味で『ロミオとジュリエット』というよりはヘンリック・イプセンの戯曲『人形の家』に近いフェミニズム的要素の強い自立の物語となっていたのだが、そのきっかけとなったのが画家のジャックという男性の存在だったというのが、ユニークなところだろう。

タイタニック

 ジャックは不思議な男性で、一見すると自由奔放で軽薄な若者に見えるが、ローズに対してはとても優しくて献身的に振る舞う存在だ。タイタニックが水没しはじめた時も最後までローズと生き延びることを考えて動き回り、最後は命を落としてしまう。ある種『ターミネーター2』におけるアーノルド・シュワルツェネッガーが演じたT-800のような存在で、最後は溶鉱炉ではなく、冷たい海の底へと沈んでいく。

 ジャックの記録はどこにもなくて何も掴めないと語られる場面が最後にあるのだが、彼は過酷な世界を生きるためにローズが生み出した虚構の存在だったのかもしれない。

 また、恋愛ドラマとしてのイメージが強烈な本作だが、タイタニック号が氷山に衝突して以降は、パニック映画となる。そして、極限状態の中でさまざまな立場の人間たちが右往左往する様子が描かれるのだが、今観ても一番印象に残るのは、最後まで演奏をやめない音楽隊の姿だ。彼らのエピソードは実話らしいが、恋愛映画としての『タイタニック』には乗れなかったが、あの音楽隊には共感するという意見を何度も聞いたことがある。筆者もまた彼らの姿に一番グッとくる。世界の終わりには、ああいう態度で望みたいものである。

■放送情報
『タイタニック』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて放送
第一夜:6月24日(土)21:00~23:10
第二夜:7月1日(土)21:00~23:10
監督・製作・脚本・編集:ジェームズ・キャメロン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼーン、キャシー・ベイツ、ビル・パクストン
日本語版吹替声優:松田洋治、日野由利加、山寺宏一、谷育子、石塚運昇
製作総指揮:レイ・サンチーニ
製作:ジョン・ランドー
撮影:ラッセル・カーペンター
音楽:ジェームズ・ホーナー
©1997 Twentieth Century Fox Film Corporation and Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/movie/
写真:Everett Collection/アフロ

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