『らんまん』タキを聖人君子にしなかった脚本の誠実さ 前半戦は朝ドラ屈指の締め方に

『らんまん』前半戦は朝ドラ屈指の締め方に

(左)西村寿恵子役・浜辺美波、(右)槙野万太郎役・神木隆之介

 寿恵子の白無垢とお色直しの、あまりの美しさに、それだけで幸せいっぱい。そして、それと入れ替えにタキが亡くなって、ただただ悲しいという単純な流れになっていないところに『らんまん』の奮闘を感じるのだ。

 お家大事の時代の終わりを、病んだ桜の枝を接ぎ木が物語る。接ぎ木とは、違う植物同士をつなげることである。植物は自分の種子を広げて生きながらえていくことを描いてきた『らんまん』が、自身の種子でなく他者のちからを借りて生きる方法も知ることが、まさに時代の変化の印であろう。他人である綾と竹雄が峰屋を守り、長男・万太郎が家を出て植物学者の道を進む。これまた万太郎が虫がよく、タキ、万太郎は虫のよい血筋と思えなくもないがそれはさておく。

 ちょうど折り返し、第一部がきれいに完結した印象。まさに最終回のようだった。半年という長期間続く朝ドラは「◯◯編」というようないくつかの区切りがある。メリハリをつけることで視聴者を飽きさせない工夫であろう。例えば、NHK BSで再放送中の『あまちゃん』(2013年度前期/NHK総合)も第13週から東京編に移り、主人公がアイドルを目指すエピソードに入った。語りも宮本信子から能年玲奈(現:のん)にバトンタッチ、第12週までの東北の田舎を舞台にした牧歌的なムードとは大きく様変わりした『あまちゃん』は、舞台を変えて成功した一例だが、朝ドラのなかには、舞台や物語に変化があると息切れしてしまう作品もある。

 『らんまん』は人間の命や尊厳を草花に見立てたテーマ的なことを前半、たっぷり描いてきたので、ここから先、植物学者として、万太郎が貧しさに耐えて本格的に自己実現していく物語にシフトしたとき、今度はどんな手があるのか。ここからが作家の腕の見せどころになるだろう。あまりにきれいに前半がまとまってしまったため、後半の予想がつかない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる