“映画を愛してやまない人たち”へ 『愛のこむらがえり』に詰まった“映画”の輝き

『愛のこむらがえり』に詰まった映画の輝き

 「映画」という言葉には様々なロマンが詰まっている。映画を観ることが好きな人もいれば、撮りたいと強く願う人も、中には“映画の世界を夢見る人”を愛してしまうこともあるだろう。喜劇の巨匠に愛されたコメディエンヌ磯山さやかと、劇団東京乾電池の最終兵器・吉橋航也のW主演映画『愛のこむらがえり』が6月23日より公開される。本作は、ヒロインの香織(磯山さやか)が映画監督を目指す彼氏の浩平(吉橋航也)と共に、“背水の陣”で映画作りに奔走する物語。映画が好き、だけど映画監督として食べていくのは難しい。安定した結婚なんてもっと難しい。映画業界でもがく男女の姿をリアルに描いた作品だ。

 『愛のこむらがえり』は、筆者を含め、かつて少しでも映画業界に身を置いたことがある人には胸がヒリヒリするような作品だろう。その一方で、我々が「映画」の世界を諦められない強烈な輝きの全てが詰まっている。コメディ作品ならではのライトな切り口に反して、気づけば3回もほろりと泣かされた。その最大の魅力はやはり、“映画を愛する男”と “映画を愛する男を愛する女”という2つの視点から作品が描かれているところだろう。

 本作には、『カメラを止めるな!』(2017年)や「是枝裕和」など、実在の映画作品や映画監督の名前が登場する。演者には『カメラを止めるな!』の“監督の妻”役でキャリアを切り拓いたしゅはまはるみの姿もあり、メタ的な要素が随所に盛り込まれていることが映画好きの心をくすぐる。さらに、映画作りを諦めきれない浩平が渾身の力を込めて書いたシナリオ「愛のこむらがえり」(本作と同名タイトル)の主演を劇団東京乾電池の座長である柄本明が務めるというキャスティングのアツさも魅力だ。映画の世界が好きで、映画界の独特な師弟関係にロマンを感じる人にとっても、こうした俳優たちの共演は見どころとなるだろう。

 劇中に登場し「ふざけたタイトル」などと揶揄されるシナリオ「愛のこむらがえり」と本作そのものは、タイトルこそ同じであれ異なる内容の作品である。これはラストの撮影シーンからもわかるが、その一方でプロットの大枠は酷似している。そこにはある種の入れ子構造的なおもしろさがあるだけでなく、香織という女性がそこまで「愛のこむらがえり」に夢中になる理由を追体験することにも繋がるのだ。香織の気持ちを理解できることで、ただの冴えない夢追い人で終わってしまいそうな浩平のキャラクターは、初めて“心から応援したい人”へと昇華される。さらに映画のポスターやVHSなど、映画における象徴的な小道具が、奔走する香織の心情をより深いところにまで観客に届ける役割を果たす。

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