橋本淳×稲葉友『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』は“明日”が訪れる幸せを教えてくれる

『よっす~』は明日が来る幸せを教えてくれる

「まだ会ってはないじゃん?」

 稲葉友演じるながちんはそう言った。橋本淳演じる、小学生時代の友達・ちばしんを半ば強引に巻き込む形で始まった旅の途中、それを描いた映画の中盤でなぜか、彼はそれまでずっと一緒にいた彼と「まだ会ってはない」のだと言う。ながちんとちばしんが「まだ会ってはない」のなら、それを観ている観客もまたそうだ。

 観客は、彼の人生そのものを知らない。ひきこもりのちばしんの前に突然現れて「俺、死んでるから、一緒に俺の死体を見に行ってほしいんだよね」と突拍子のないことを言って、「1回やってみたかったこと」をしてはしゃぎ、そのままにしてきた自分の部屋に関する細かいことをやたら気にする、ちょっと変わった「自称幽霊」の彼の旅の道中ことしか知り得ない。それでも、彼が会いに行く、彼の人生を取り巻いていた人々を見つめるだけで、その人生がどんなに豊かで、愛おしさに満ちていたかがわかる。翻ってそれは、たくさんの人との出会いによって構成された、私たちの人生がどんなに愛おしいかを実証することに、他ならないのである。

 6月16日から先行公開、6月23日から全国順次公開される『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』は、引きこもりの青年・ちばしん(橋本淳)の元に、かつての親友・ながちん(稲葉友)が借りパクしたゲームソフトを持って現れたところから始まる遅咲きの青春ロードムービーだ。

  手掛けるのは、「なかないで、毒きのこちゃん」主宰の鳥皮ささみこと猪股和磨であり、同劇団が2021年に上演した舞台『7丁目のながふじくん』がベースとなっている。『7丁目のながふじくん』が上演された「シアター711」が映し出されるだけでなく、ながちんの住んでいた場所として描かれる下北沢の風景もまた、その街を生きる人々の息遣いまで感じることができるような、愛を込めた描き方がされていて、静岡から湘南経由で東京まで向かう男2人のロードムービーとして秀逸なだけでなく、『街の上で』をはじめとする良質な「下北沢映画」の1つとして位置付けることができる作品だ。

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