『あなたがしてくれなくても』はなぜリアルなのか? 奈緒らのキャスティングが成功の鍵に
この物語の解決法は一見、簡単に見える。本来は浮気などしない性格で、子どもを欲しがっているみちと新名が再婚すればいいのである。これぞみんなが望んでいるハッピーエンド。しかし、第10話では、楓と離婚した新名が、みちを思い出の水族館に誘い、満を持して「好きです。ずっと一緒にいてください」と告白したものの、みちはまさかの「ごめんなさい」だった。そのあとの新名が突っ伏して「こんなはずじゃなかった」と男泣きをする場面には、涙を禁じ得なかった。
みちも離婚後すぐに新名と付き合うわけにはいかないとか、まずは会社での昇進試験に合格しひとりでもやっていける経済力を身に着けようと思っているようだ。それもまたリアルだし、女性の生き方として正しい。ぜったい人生5周目ぐらいだと思われる“訳知りすぎる”みちの後輩(武田玲奈)の存在を除けば、どこまでも現実に即した設定を貫くようで、最終話ではどんな着地点を見せてくれるか楽しみだ。
TVerでの見逃し配信再生は累計3200万回超え(※6月8日時点)を達成した同作。ドラマとして達成したのは、演技力の確かなキャストをそろえれば、通勤電車が丸ごと未来へタイムリープしたりFBI捜査官がヘリコプターで登場したりといった派手な仕掛けがなくても、視聴者を惹きつけられると証明したこと。奈緒は出世作となった『あなたの番です』(2019年/日本テレビ系)や主演作『ファーストペンギン!』(2022年/日本テレビ系)など、押し出しの強い演技の印象があるが、今回はぼーっと何かを考えているようなニュートラルな表情も多く、それでいて身勝手な夫の言動に傷ついた瞬間は一転、感情豊かに悲しみを表現できる。つくづく上手いと唸らされた。
夫役の永山瑛太も、めちゃめちゃ上手い。陽一は外見と人当たりが良いのでみちをはじめ、勝手に女性が寄ってくる人生を歩んできたが、本来は自分の世界に閉じこもりがちな男。しかし、この離婚を通して少しずつ他人の心を思いやるということを学んでいった。離婚届にサインするときの決意の表情が、彼が最も成長した瞬間で、それを的確に表現していた。みちの最後の言葉が「陽ちゃん、ちゃんとご飯食べてね」だったのも、この夫婦が母と息子のような関係だったからだろうし、きっと次の恋愛はうまくいくはず。
岩田剛典はいつも悲しみをたたえながら微笑んでいるような新名を、原作のイメージそのままに演じてみせた。あの表情をずっとキープできるのはすごいよ……。田中みな実は、これまで演じてきた役柄から考えて、夫の浮気発覚後に豹変するモンスターキャラかと思われたが、実は4人の中で最も潔く、プライドが高くてかっこいい女性を演じた。一番の見せ場は、第9話で楓がみちに会いに行き、カフェで話し合うところ。新名の浮気相手であるみちを非難したつもりが、逆に、みちからセックスを拒んでいる残酷さを訴えられて、動揺する表情が抜群に上手かった。
人間は誰しも間違いを犯すし、30代でも未熟だし、それゆえに夫婦関係も続けていくのは難しい。リアル路線で実際にセックスレスに悩んでいる人たちの思いをすくい取るには、この4人が必要だった。そう納得できるようなキャスティングに成功したドラマは観ていて清々しいし、いろんなことを考えさせられる。芸能人のしくじり談を面白がっているより、よほど豊かな時間を過ごせるのではないだろうか。
■放送情報
木曜劇場『あなたがしてくれなくても』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
©︎フジテレビ
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