『あなたがしてくれなくても』はなぜリアルなのか? 奈緒らのキャスティングが成功の鍵に
私たちが今、芸能ニュースで見ているのは、とてもリアルなW不倫劇だ。登場人物は連続ドラマにも主演する人気女優とその夫、女優と恋に落ちたシェフ。シェフにも妻がいる。女優とシェフが謝罪文を出して関係を認め、女優の夫は記者会見を開いて「幸せだった頃に戻りたい」と涙……。その三角関係は恋愛ドラマを地で行く展開になっている。
報道されることの全てが事実ではないにしても、スキャンダルにはノンフィクションならではのインパクトがあり、「あの人、こんなことしちゃったんだ」と知るときの野次馬的好奇心は私たちの退屈な日常を一瞬だけ面白くしてくれる。しかし、その代償として、不倫をスクープされた本人の心がひどく傷つき、築き上げてきたキャリアは崩壊し、その人の子どもたちは学校でいじめにあいかねないわけだから、そんなことになるぐらいなら醜聞の刺激なんていらないというのが今回、筆者が実感したことだった。
つまり泥沼の不倫劇なんて、フィクションの中だけで楽しんでいればいいのである。
その点、『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)は、リアリティがあって共感できる不倫ドラマだ。ハルノ晴の原作漫画を基に、30代の夫婦のセックスレスというデリケートな題材を丁寧にじっくりと展開した本作。その描き方は真面目すぎるほど真面目だった。
主人公のみち(奈緒)は、夫の陽一(永山瑛太)と2年間セックスをしていない。みちの上司である新名(岩田剛典)も、ファッション誌の副編集長をしている妻の楓(田中みな実)とセックスレスになっていて、みちと新名はお互いの秘密を打ち明け、愛する人に求められない悲しみを共有し、パートナーとの関係を再構築するために相談しあっていた。
しかし、真面目で優しい性格の2人は自然と惹かれ合い、温泉旅館でのセックスこそ未遂で終わったものの、気持ちとしてはお互いのパートナーを裏切ることに。夫婦関係が修復できないぐらいギクシャクしはじめ、陽一はみちと、楓は新名と、拒否していたセックスを再開しようとするが、そのときには既にみちと新名の心は離れていて、うまくいかなかった。
新婚当初はラブラブだったのに数年でなんとなくセックスがフェードアウトしてしまうのも、相手がかなり自己中心的な性格だと後からわかってくるのも、夫婦間で子どもを作りたいという気持ちに差が出てくるのも、いっそ離婚したいと思っても相手の両親を含めて家族の関係性ができており言い出しにくいのも、結婚生活あるある。4人の登場人物とは世代が違うが、27歳で結婚し35歳で子どもを持った筆者から見ても、ひとつひとつがリアルすぎた。
昔から「子はかすがい」と言うように、子どもがいればその両親として婚姻関係を続けていける場合も多いが、この2組の夫婦に子どもはいない。みちが陽一から「子どもは欲しくない」と言われ、結婚するときから子どもが欲しいと意思表示してきたのにだまされた形になって絶望したときの表情には、胸を締め付けられた。
陽一がさんざん抵抗した末に離婚届にサインし、「俺と結婚しなきゃよかったな。無駄な時間過ごさせてごめん」と謝ったときに、みちが「そんなことないよ」と否定してあげなかったのも、きっと内心では(今さら謝って済む問題じゃねーよ、この詐欺師が! 結婚して5年経ったし、あたしもう32歳だよ。この後、他の誰かと再婚して子どもを作るなんて無理ゲーだわ。どうしてくれんだよ)と思っていたからであろう。
いや、そんなことを思わないのが、みちの良いところで、2人の男性から愛されるゆえん。そういった口汚い罵りの言葉を、4人や周囲の人たちが言わないのも、不倫ドラマとしては新しかった。このジャンルでは冬彦さん(佐野史郎)で有名な『ずっとあなたが好きだった』(1992年/TBS系)から、『あなたのことはそれほど』(2017年/TBS系)で東出昌大が演じた涼太、『ホリデイラブ』(2018年/テレビ朝日系)で松本まりかが演じた里奈、『あなたには帰る家がある』(2018年/TBS系)の綾子(木村多江)、そして本作の制作陣による『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(2014年/フジテレビ系)の俊介(鈴木浩介)まで、強烈なモンスターキャラが登場するもの。しかし、本作には決定的な悪者は存在せず、あくまで全員が自分なりに頑張って生きてきた結果、すれ違ってしまう。愛憎劇としては物足りない気もしてしまうが、それが今のリアルなのだ。