『僕の心のヤバイやつ』監督が語る、『からかい上手の高木さん』と似て非なる演出の意図

『僕ヤバ』と『高木さん』演出を監督が語る

 TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』(以下、『僕ヤバ』)は、男子中学生の理想とリアルを克明に描いている。4月期クールのアニメの中でも、“生々しさ”においては断トツでトップだと言える。結構な“中二病”の市川が、同じクラスの美人で風変わりな山田と距離を縮めていく。そこには世の中の男子が経験した、または今まさに体感しているかもしれない心の機微が、きめ細やかな心情描写によって描き出されている。

 監督を務めたのは、『からかい上手の高木さん』や『カッコウの許嫁』などを手がけた赤城博昭。こうした10代の恋愛や成長を描くことに定評があるとも言える赤城監督は、何を心がけて演出しているのだろうか? 監督が考える『僕ヤバ』の魅力から、アニメ監督としてどのように演出をブラッシュアップしてきたのかまでを聞いた。

高木さんと山田のヒロイン性の違い

ーー原作を初めて読んだとき、どのように感じられましたか?

赤城博昭(以下、赤城):実はオファーをいただいてから読みました。第1巻はギャグ寄りで始まって、笑いながら読んでいたんですけど、話を追っていくと恋愛要素がとても出てくるお話で、素敵な恋愛漫画になっていく構造に驚いていました。

僕の心のヤバイやつ

ーー監督がこれまでに手がけられたアニメ『からかい上手の高木さん』や『カッコウの許嫁』といった作品にも共通する要素がある作品だと思います。その上で、本作ならではの魅力はどこにあると思いますか?

赤城:いろんな意味での生々しさですね。結構リアルな中学生の風景を描いてると思います。キャラクターにしてみても一見ギャグなテイストですが、僕の中学時代を思い出しても性に目覚めた足立や太田のようなクラスメイトはたくさんいたので(笑)。女の子も、芹那みたいにヤンキーっぽいけど人情深い女の子もいた気がします。なので、中学生の生々しさを想像以上に描いていて、漫画のようで漫画でないような、ちょっとリアル目線な作品だと思いました。

赤城博昭
赤城博昭監督

ーー私も読んでいて、物語もそうですし、絵自体も写実的な感じで作られているなと感じていました。

赤城:そこは桜井(のりお)先生にお会いした時に聞いたのですが、「想像だけではなく“観察眼”で描いています」というお話を聞きました。そうした姿勢が、ちょうど『僕ヤバ』の世界に伝わっているのだと思います。

ーーそうだったんですね。原作は中学生のリアルを描いている物語であり、アニメ演出においても写実的に描いている部分がポイントのように思っています。

赤城:アニメには動きがあるので、多少アニメ用にデザイン変更された部分はあるのですが、桜井先生の監修はすべていただいています。なので、たまにアニメは設定の絵と違うというようなことを耳にしますが、桜井先生の絵は結構入っていますね。

僕の心のヤバイやつ

ーー細かい描写とか『僕ヤバ』の世界がすごく出ているなと感じていました。しかし、それでいて赤城監督の作家性による演出なども感じられて、理想的なアニメ化だったと感じています。『高木さん』もそうですが、赤城監督の画作りはシーンをいろんな角度から撮ったり、目線を変えるところにこだわっていると感じています。そこにはどんな意図があるのでしょうか?

赤城:やはりカット自体にもリズムがあると思うので、そのリズムを平凡にしたくはない、というのが前提にあります。あと、心情面とかも反映していますね。例えば威圧的な形での緊張感を演出する場合はアオリの構図で、不安なときの緊張感は俯瞰の構図で撮るなど、そういうことを意識しています。

ーーカット割から心情面とリンクしているのですね。あと、今回は『高木さん』と比べても撮影処理が多めに入っていると感じています。

赤城:そうですね。『高木さん』からは特に心情面の演出をする際に少し変えています。今回、市川くんは当初からどこか“ぼっち”で、中二病的な感じで闇の方にいる。だから光の方には向かわずに、ずっと影のところにいるんです。そこから光の色とバランスを組み合わせて、山田の方に近づくと徐々に光が差し込んでくる。そうして明るい方向に向かっていくように意識しました。

僕の心のヤバイやつ

ーー絶妙なバランス感覚で演出がされていて、市川の心情から心理的な立ち位置まで、画面からすごく伝わってきました。やはり本作は『高木さん』との比較で見えてくるものがあると感じていて、“同じこと”と“違うこと”についてどのように考えていますか?

赤城:基本的にはヒロインの性格ですね。どちらも高嶺の花のような女性ですけど、演出的に難しいのは『高木さん』でした。実のところ、やっぱり高木さんって近寄り難い存在で隙がなく、西片にしか見せないようなオーラがある。大口で笑う笑顔や変顔とかは西片の前でしかしたことないんですよね。そういう感じなので、高木さんのようなクラスメイトは今まであまり存在しなかったんです。一方で山田の方は、市川がおにぎりを食べている山田を見る前までは同じように近寄りがたさを感じていたと思います。でもおにぎりを食べている山田を見て「ちょっとヤバイ感があるぞ」、「どこか隙があるぞ(笑)」と感じられて、心がほっこりしたんじゃないかな。そういう部分でいえば、山田はどこかしらのクラスにいそうな存在感があるので、僕としては山田の方が描きやすいですね。

僕の心のヤバイやつ

ーー構造のパッと見の雰囲気は似ているけれど、キャラクターの性格にあわせて演出が結構違ってくるということですね。

赤城:もちろん違うところもあれば一致するところもあります。それはどちらも言葉で言えない部分だと思っていて、そこはちょうど演出的にもやはり難しいし、楽しいところですね。どうしても中学生の気持ちの伝え方っていうのは難しくて、たとえ恋に目覚めたとしても「好きです」とはなかなか言いにくい。その関係でいえば、この2つの作品は似ていますね。

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