『僕の心のヤバイやつ』が放つ懐かしさとヒリヒリ感 美しい作画と声優陣の表現力に脱帽

『僕ヤバ』が放つ懐かしさとヒリヒリ感

 『鬼滅の刃』や『【推しの子】』など、多くの話題作が放送されている春アニメ。そんな中でも、『僕の心のヤバイやつ』に大きく心動かされている人がいるのではないだろうか。

 本作は陰キャで絶賛中二病を発症している中学2年生の市川京太郎と、陽キャで雑誌のモデルとしても活動するほど容姿端麗なクラスメイトの山田杏奈の恋模様を描いたラブコメディ。本作の原作者は『みつどもえ』も手がけた桜井のりおであり、同作同様に下ネタがバンバン飛び出す。足立や神崎といった男子クラスメイトが「山田みたいな女、セフレにしたいよな」「同じ汗だくのお前も、乳首透けてんだろ」とわちゃわちゃ話したり、下世話な心理テストを女子に仕掛けたりなど、まさに男子中学生らしいしょうもないやり取りが繰り広げられており、どこか懐かしさを感じる。

 また、図書室で1人でコソコソお菓子を食べたり、ねるねるねるねの水を何回も汲みに行ったりといった、謎ムーブを見せる山田に、市川が内心ではあるがテンポ良くツッコミを入れるため、笑いどころがわかりやすくとても見やすい。加えて、低音がドッシリしているわけでもなく、ハキハキしているわけでもなく、堀江瞬が表現する妙に甲高くどこか弱弱しい市川の声もクセになる。心の中では饒舌ではあるものの、山田に話しかけられたり足立にすごまれたりした時は、声量が小さくオドオドした声になるそのギャップも中学生らしく、あの頃の記憶が呼び起こされる気がしてくる。堀江の表現力や適応力に脱帽だ。

 市川と山田のやり取りは微笑ましいが、ゆるふわほのぼの一辺倒というわけではないことも特筆すべき点ではないか。市川は“血に飢えた獣”を自称するものの、表立った言動はやはり大人しい。しかし、授業中に突然泣き出した山田がクラスメイトからの視線にさらされないために発表用の資料をカッターで切りつけ、時には文化祭で使用する墓石の絵に「山田」とうっかり書いた原を庇うために噓をつくなど、市川は何かとトラブルを巻き起こしたり巻き起こされたりする。

 山田の奇行には市川がツッコミを入れるため安心感があるが、市川の奇行には誰もツッコまない。しかも、ギャグシーンではテンポ良く進行するにもかかわらず、市川が訝しげな表情をクラスメイトに向けられるシーンではじっくりと時間を使う。ただ、毎度毎度市川ばかりが標的になるわけではない。第3話では、体育でバスケをやっていた時、金生谷がうっかり山田の顔面にボールをぶつけてしまい流血に騒ぎになる。その際、吉田が金生谷に詰め寄るという、クラスの“1軍”がそうではないクラスメイトを責めるシーンとなっており、胸がズキズキした。

 中学校のクラスメイトではちょっとした過ちで人間関係が変化する。クラスメイトと馬鹿話で盛り上がった時の懐かしさだけでなく、かつて味わった時のようなヒリヒリ感を思い出させてくれるのも面白い。こういった緩急があることも、本作のついつい目が離せなくなる仕掛けと言える。

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