今村翔吾×瀬口忍×三吉彩花『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』鼎談 「3世代で語り合えるような作品に」

今村翔吾のデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』が、約8年の歳月を経て漫画化、そして待望のアニメ化を迎える。これを記念し、原作者の今村、コミカライズを手がける漫画家の瀬口忍、アニメで深雪役の声優を務める俳優・モデルの三吉彩花による鼎談が実現した。
「絶対に後悔のないものを書こう」という決意で書かれたデビュー作。今村が明かす執筆の原点、瀬口が「早く描きたい!」と確信した魅力 、そして三吉が「すごく共感できる」と語るキャラクター。作品に込められた「熱い気持ち」 や、読者人気No.1の「深雪」 への思い、メディアミックスへの期待まで、三者三様の視点から『火喰鳥』の魅力を解き明かす。
今村翔吾「運というのは縁に近いもの」

――今村さんの小説『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』が、約8年の歳月を経て漫画化、そしてこのたびアニメ化されることになりました。まずはこの状況について、作者としてどんな感想を持っていますか?
今村翔吾(以下、今村):運が良かったと言ったら身も蓋もないけど、僕は運というのは縁に近いものだと思っていて。僕がこれまで接してきたいろいろな方々をはじめ、『ぼろ鳶組』シリーズを愛してくださった読者のみなさんの縁で、ここまで大きなプロジェクトになったと思うんです。まあ、まだ何も終わってないし、アニメに関してはまだ始まってもないんだけど(笑)。ただ、とりあえずここまできただけでも、すごく感慨深いことだなって思っています。
――瀬口さんと三吉さんは、それぞれどのように『火喰鳥』と出会い、どんな感想を持ちましたか?
瀬口忍(以下、瀬口):僕の場合は、『週刊少年チャンピオン』の編集部から、「こういう話があるんですけど、どうですか?」という話が来て。そのあらすじを読んだだけで、これはもう絶対面白いだろうという確信がありました。実際、読んでみたら、読んでいるそばから、頭の中に絵が浮かぶと言いますか、「早く描きたい!」という気持ちで一杯になりました。
三吉彩花(以下、三吉):私は、これまで声優のお仕事はほとんどしていなかったので、今回のお話を最初に聞いたときは、「えっ?!!」みたいな感じだったのですが、原作小説と漫画の両方を読ませていただいて、すごく面白かったんですよね。江戸時代の話ではあるけれど、「昔は、こうだったんだな」という感想以上に、今の自分にとっても、すごく共感できるようなところがたくさんあって。特に、アニメ版で私が声を担当させていただく深雪というキャラクターは、すごく現代的で共感性の高い女性だったから、私なりに精一杯、頑張らせてもらおうと思いました。
教え子への思いと“日本一貧乏な藩”

――『火喰鳥』は、今村さんのデビュー作でもあるわけですが、そもそもなぜ、このような話をいちばん最初に書こうと思ったのでしょう?
今村:僕は、結構本好きだったので、今の出版状況の厳しさは重々承知していたというか、一作出して消えていく作家が山のようにいるのもわかっていたし、自分もそうなる確率が高いなっていうのもわかっていたんですよね。だったら、絶対に後悔のないもの、自分がいちばんやりたいことを一冊やって終わろうというか、そういうものを書こうと思っていて。で、そうなったときに、僕自身が小説家として、人生もう一回、再チャレンジするっていうのもあって、何度でも立ち上がる人間というか、そういう話を書きたいなって思ったんです。
――当時はまだ、別のお仕事をされながら、執筆されていたんですよね?
今村:そうそう。その仕事に就く前に、僕はダンスインストラクターの仕事を長くやっていたんですけど、そこで僕が教えていた子たちは、結構やんちゃな子が多かったというか、僕も含めて世間からの風当たりが強かったんです。ただ、そこにはすごく心の綺麗な子がいっぱいいたし、僕自身そういう子たちの面倒をみてきたところがあったので、見た目がどうこうではなく、「いちばん大切なものって何だろう?」というか、僕の教え子たちへのメッセージも含めて、それがいちばん書きたいテーマかもしれないって思ったのが、そもそもの始まりでした。

――そこで「江戸時代の火消」という題材を選んだのは、どんな理由からだったのでしょう?
今村:江戸時代の人気の職業というのが3つあって――「与力」と「役者」と「火消」なんですけど、与力の話は、すでにたくさん書かれているじゃないですか。で、役者の小説も、まあまあある。だけど、火消の話って、ほとんどないんですよね。たぶん、描きにくいんやろうなあって思いながらも、その当時の火消について徹底的に調べてみて。江戸の火消って、かなり細かく管轄が分かれているんですけど、その公務員帳みたいな史料を見たときに、どの藩もだいたい4年ぐらいで辞めさせてもらっているのに、全然辞めさせてもらえん藩がひとつあるなって思ったら、それが出羽新庄藩だったんです。そのときに、僕が知っていた新庄藩の情報と繋がって……。
――かなり財政的に厳しい藩だったんですよね?
今村:そうなんです。300藩の中で、いちばん貧乏な藩だったらしくて。で、それを火消の話と絡めたら、めちゃめちゃ面白いんじゃないかなって思ったんです。他の藩から馬鹿にされているような、ボロボロの装備の奴らが活躍する物語って、きっと痛快だろうなっていう。




















