『だが、情熱はある』『僕ヤバ』『ぼざろ』など、“ネガティヴな主人公”なぜ増加?
King & Princeの髙橋海人とSixTONESの森本慎太郎がダブル主演のドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ)が放送中。本作は、オードリー若林正恭・南海キャンディーズ山里亮太のこれまでの人生を描いた青春ドラマだ。過去放送回では、2人の学生時代を取り巻く人々が描かれてきた。
その中でなんとも癖になるのは、時折挟まれる2人の歪んだ感情やひねくれた考え方の独特さだろう。若林と山里は極度のネガティブ思想を持ち、それぞれの葛藤を抱えながらも芸人の道を目指していくが、近年こうした暗い性格のキャラクターが中心となって活躍を遂げる物語のヒットが続いている。
特にその傾向が顕著に表れているのがアニメ作品だ。中でも『Re:ゼロから始める異世界生活』や『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』に代表される「異世界転移・転生もの」ジャンルなどは、まさに近年の流行アニメの代名詞とも言える作品を多数生み出してきた。異世界転生ものでは、細かな世界観の設定は違えど、主人公が前世での燻った人生を覆していく爽快感が視聴者の心を掴む。最初から強くてカッコいいヒーローではない主人公だからこそ、等身大の現代人が人生を逆転して駆け上がっていく感覚に感情移入しやすいのも異世界転生ものの面白さだ。この点は、現在お笑い芸人の枠を超えてさまざまなフィールドで活躍している若林と山里にも「こんな時代があったのか」と楽しめる本作にも通じる魅力だろう。
そして、この人生の逆転に必要なのは、暗いキャラクターだからこその“不器用ながらも強い自意識”なのではないか。もちろん異世界転生の場合は、主人公だけが持たされた圧倒的な特殊スキルが鍵になるなどの設定上の多少の無茶振りもある。しかし多少の幅はあれど、この手の主人公の根底には「他人から求められたい」「馬鹿にしてきた人を見返したい」という意識があると考えている。
異世界転生もの以外の作品を例に挙げるなら、昨年秋に放送された『ぼっち・ざ・ろっく!』も、ネガティヴ系主人公が活躍する作品の一つだろう。『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公は、人見知りでネガティヴな性格の後藤ひとり。極度の人見知りであるひとりだが、彼女の胸の中には“見栄を張りたい”欲求が眠っている。他人とのコミュニケーションに苦手意識を感じながら、自身の演奏動画をネットに投稿し続けてきたところにもその片鱗は感じられるだろう。
また作中では、ひとりがみんなとはひと味違う女の子に見られたいがゆえに、ギターを背負って登校してみるも、誰とも会話をしないまま下校することになったエピソードも描かれていた。「誰かに見てほしい」「人よりも少し特別でありたい」と思う感情と音楽への強い思いは相乗効果を発揮し、ひとりのギターの音色はどんどんと磨かれていく。この『だが、情熱はある』の主人公たちも抱えている強い承認欲求と、自分の技術を研鑽することへの高い熱量の相性の良さは、ネガティヴな主人公だからこそ描くことのできる作品の面白さでもある。