『王様に捧ぐ薬指』と『あなたがしてくれなくても』 正反対に見えて根底のテーマは近い?
テレビドラマの人気の指標として、今や平均視聴率と肩を並べつつあると言えるTVerの再生回数ランキング。今クールの1位は『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)、2位は『王様に捧げる薬指』(TBS系)で、この2作が上位を独占している状態がずっと続いているのだが、どちらも結婚を題材にした夫婦の物語だというところに時代の空気が表れているように感じる。
まず、木曜劇場(フジテレビ系木曜22時枠)で放送されている『あながしてくれなくても』は、セックスレスの夫婦の物語だ。
フタバ建設・営業推進部で働く吉野みち(奈緒)はカフェの店長として働く夫の陽一(永山瑛太)と2年にわたり(セックス)レス状態にあった。
上司の新名誠(岩田剛典)にレスのことを話してしまったみちは後悔するが、実は誠もファッション雑誌の副編集長として激務に追われている妻の楓(田中みな実)とレス状態にあった。同じレスとしてお互いを励まし合う二人は次第に惹かれ合っていく。
セックスレスというテーマに注目が集まっている本作だが、それ以上に映像作品として目を引く場面が多い。たとえば第7話終盤。みちと誠の関係を疑う楓が、みちをランチに誘った後、冷たい表情で「夫と浮気してますよね」と言い放ち、無音になって物語は終わる。その後流れる次回予告では、お店で二人が向き合う姿が映るのだが、二人が無言の中、水をコップに注ぐ音が小さく聞こえるのが、とにかく怖い。
本作はナレーションも含めた言葉による説明を極力省略し、劇中の出来事を役者の芝居と映像で描こうとしている。それがもっとも強く現れているのが第1話冒頭だ。交尾している蝿の姿を見て「この幸せものが」とみちが言う場面から始まり、陽一と花見に行ったみちが土砂降りの中、家に戻り、脱衣所で二人はいっしょに服を脱ぐが、陽一はみちに欲情しない。そして、寝ている陽一にみちがやんわりと拒絶される場面を見ているだけで、レスだが愛情がないわけではない二人の関係がよくわかる。同時に感じるのが強烈な色気である。
セックスの不在を描きながら妙に艶っぽいのが本作の面白さで、むしろセックスで解消できないからこそ、行き場のないエロスが、作品全体に充満している。
本作のプロデュースは三竿玲子、チーフ演出は西谷弘。二人は2014年に不倫を題材にしたドラマ『昼顔〜平日午前3時の恋人たち〜』(フジテレビ系、以下『昼顔』)を手掛けている。同じ木曜劇場で放送される本作も『昼顔』のような不倫を題材にしたエロティックなドラマになるかと思われたが、夫婦の姓生活を題材にしていても物語の方向性は真逆である。『昼顔』は、抑圧された主婦の家の外に出たいという激しいエネルギーが不倫という形となって現れたドラマで、既存の価値観を否定して外に向かおうとする力強さが感じられた。
そのエネルギーは、2020年に開催予定だった東京オリンピックへと向かう日本全体を覆っていた気分とシンクロしており、だからこそ本作は高い支持を受けたのだろう。対して『あなたがしてくれなくても』に漂っているのは、少子化が進む中でじわじわと衰退している日本全土を覆う「どこにも行く場所がない」という諦めの空気で、それがセックスレスという形で描かれているように感じる。物語はこれから終盤だが、行き場のないエロスがこのまま枯れていくのか、それとも出口を求めて爆発するのかが、今後の見どころだろう。