『らんまん』を成立させた神木隆之介の愛され力 男性主人公朝ドラを切り開くきっかけに
万太郎は不思議な主人公で、行動の一つ一つを抜き出すと身勝手で自己中心的な男に見える。植物学にかける情熱はとても素晴らしいが、それ故に周囲と衝突を繰り返している。第7週では、万太郎が試験を経ずに東大の研究室に出入りすることに対する学生たちの反発が描かれるが、当然の反応である。困っている人をみると放っておけないという態度も、見方を変えると偽善的で優等生的な振る舞いである。育ちの良さゆえか、普通の人が抱える妬み嫉みといった暗い感情に対して、あまりにも無頓着すぎるのではないか? と思ってしまう。
それでも、なぜか彼のことを嫌いになれない。これは演じている神木隆之介の魅力に依るところが大きい。子役時代から活躍し、多くのドラマや映画に出演している神木は、老若男女から愛される国民の息子とでも言うような俳優だ。
万太郎は天性の人たらしで、彼と話していると対立する人間であっても次々と絆されていく。普通ならご都合主義だと思ってしまう展開だが「神木くんならみんな好きになっちゃうのも仕方ないかな」と納得させられてしまう妙な愛嬌がある。神木隆之介を主演にした時点で、本作の成功は約束されていたと言っても過言ではない。
中々、定着しない男性主人公の朝ドラだが、『らんまん』が成功すれば、今後も増えていく可能性は大きい。おそらく最終的な評価は、男性主人公の万太郎を通して、現代の男の子のロールモデルを朝ドラが作れるかによって決まるのではないかと思うのだが、現在のところ、その試みは概ね成功しているように感じる。
植物のことを考えていつも楽しそうに駆け回っている万太郎を見ていると、「こんなふうに生きられたら楽しいだろうなぁ」と思う。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK