『らんまん』と『南総里見八犬伝』に共通点? “自分らしさを発見する”構成の見事さ
『らんまん』(NHK総合)第7週では、東京に来た万太郎(神木隆之介)がたくさんの人々と出会う。クサ長屋こと十徳長屋の住人たち、青長屋こと、東大の植物研究室の人たち……。とりわけ、青長屋の田邊教授(要潤)との出会いは、万太郎と田邊の間にジョン万次郎(宇崎竜童)という共通の知り合いがいたことで印象的なものになる。田邊はアメリカ留学前に会った万次郎に影響を受けており、そのおかげで、土佐出身の万太郎に好意的で、万太郎が東大に通うことを許可する。もちろん万太郎に実力があるのが前提ではあるが。
「君と私はつながるべくしてつながったのかもしれないな」というドラマティックな田邊のセリフを、読本にハマっている寿恵子(浜辺美波)が聞いたら悶絶するのではないか。寿恵子が愛読する『南総里見八犬伝』の主人公たちのような運命的な出会いに、寿恵子も巻き込まれていこうとしていた。
田邊の研究室にあった牡丹の花をスケッチして、万太郎が寿恵子に渡すと、彼女は「牡丹の花を授けられた者は見知らぬ旅に出る」からと、自分もまた未知の冒険をする決意をする。その見知らぬ旅(鹿鳴館でダンスを習う)に田邊が関わっているとは、万太郎はそのときまだ知らないのである。いい感じになっている万太郎と寿恵子の関係に、田邊はどのように関わっていくのだろうか。
『南総里見八犬伝』は寿恵子の亡き父が愛読していた読本で、形見に譲り受けたもの。江戸時代の作家・曲亭馬琴(滝沢馬琴)が28年もの長い年月をかけて執筆した106冊にも及ぶ長編小説で、主人公は数奇な運命でつながった8剣士。ばらばらの環境に生まれ育った8人は、それぞれ、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が浮き上がる玉をひとつ、身体のどこかに同じ牡丹の痣を持つという共通点があった。やがて8人は運命的な出会いをする。伝奇冒険活劇という感じの物語だ。7つの玉を集める『ドラゴンボール』は『南総里見八犬伝』にインスパイアされたものともいう説もある。
8人のうちのふたり、犬塚信乃と犬飼現八が共闘する場面に、寿恵子はしびれ、ふたりを見つめていたくて「草むらになりたい」と、今でいうオタク心を燃やす。でもそれだけでは「置いていかれる」と、寿恵子は「八犬士になりたい」とまで思うのだ。『らんまん』は女性が男性に比べて不遇な時代の物語で、寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)も妾の身であった。何不自由なく和菓子店を営む資金を援助してもらってはいるが、愛する人物の葬式にも出ることが許されない日陰の身で「妾なんてつまらないよ」と考えている。そんな時代に、寿恵子は男ばかりの主人公(ただし信乃は女装している設定)のなかに自ら入りたいと考えるところが新しい感覚を持っている。