『どうする家康』甲本雅裕の「きっと大丈夫」を胸に　夏目“吉信”の人生が詰まった名演に涙

　『どうする家康』（NHK総合）第18回「真・三方ヶ原合戦」。金荼美具足をまとった遺体が信玄（阿部寛）のもとに届けられた。全国に家康（松本潤）討ち死にの知らせが広まるも、家康は家臣たちによって命を救われた。

　その身を挺して家康の命を救ったのは夏目広次（甲本雅裕）だ。いつも目立たず、家康から何度も名前を呼び間違えられていた広次だが、第18回でその理由が明かされる。

　かつて広次は吉信の名で竹千代（川口和空）に仕えていた。吉信がついていながら、竹千代は織田の人質として送られてしまう。切腹に値する失態を犯した吉信に家康の父・松平広忠（飯田基祐）は「名を変えてやり直すがよい」と伝えた。広次の罪を咎めなかったのは広忠だけではない。広次と名を変え、家康に仕えたが、三河一向一揆では家康を裏切る。そんな広次の謀反の罪を家康は不問とした。

　第9回で家康から赦された広次が、決死の面持ちで首を横に振り、体を震わせてすすり泣く姿が強く印象に残っている。家康が広次の名前を覚えられない真相が明かされ、改めてその場面を見ると、2度も赦された広次の心苦しさが胸に届く。

「殿、具足をお脱ぎくだされ」

　家康の金荼美具足を一切の迷いなく身につけていく広次の顔つきは誰よりも勇ましい。広次は家康の身代わりになるため、敵兵の声のするほうへ向かおうとするが、家康の言葉に思わず足を止めた。

「吉信じゃろ？　お主は……幼い頃、わしと一番よう遊んでくれた……。夏目吉信じゃろ!?」

　必死に涙をこらえる表情には、長年仕えてきた家康との別れに対する悲しさやこれまで罪を赦されてきたことへの苦しみ、ようやく恩を返すことができるという広次の心情が入り混じり、心を打つものがあった。「今度こそ……殿をお守りいたします」と広次は膝をつく。「駄目じゃ。吉信！　駄目じゃ！」と叫ぶ家康に、広次はこう伝えた。

「殿が死ななければ、徳川は滅びませぬ」
「殿は……きっと大丈夫」

　広次は家康に優しく微笑む。広次の優しい声色と微笑みは、臆病で弱虫の竹千代を励ましてくれた頃と変わらない。広次はずっと家康を守り抜きたかった。敵の刃に貫かれた広次は、家康を守ることができたことに安堵し、穏やかな表情を浮かべて力尽きた。