黒木華×寛一郎×池松壮亮が『せかいのおきく』で得たものは? 阪本順治監督の現場を語る

『せかいのおきく』特別座談会

名もなき人々の“時代劇”を作る意義

ーー矢亮と中次が下肥買いの仕事をしていることもあり、衣装の汚れだったり、セリフにも「糞」が頻出しますよね。

阪本:そうそう。3人とも腹の中ではどう思っていたかは分からないけど(笑)、普段だったら絶対に言わないようなセリフも言ってくれてね。汚れることもいとわず、みんなが面白がって映画に取り組んでくれたことは嬉しかったですね。

黒木:阪本監督の演出で窮屈と思ったことはまったくなかったですね。阪本監督とはいつも自然体でいられたので、現場はずっと楽しかったです。

寛一郎:僕も「やりにくかった」ということはまったくないですね。強いて言うなら、この映画はすべてが“逆算”だったので、それは難しかったです。結果的に映画のラストシーンから撮り始めているんですが……。

池松:最初は本編に入らないという話だったんだよね。

寛一郎:そうそう。最初に撮ったシーンがティザー映像になって、それが映画の本編に組み込まれて、しかもラストシーンになるという。完成したものを観たときはこんな形になるんだと驚きました。

池松:やりにくいということはまったくなく、僕にとって素晴らしい現場体験でした。まわりのみんなが阪本組に魅了される理由がはっきりと分かりました。阪本さんのスタッフやキャスト、それぞれの役人生を背負ったリーダーとしての在り方に、これが映画監督かと日々感動しました。その態度と映画哲学、現場力と人を理解する力に圧倒されました。

阪本:みんなにそう言ってもらえて何よりです(笑)。3人とも本作を企画した原田とは何度も仕事をしていて、彼のやりたいことを理解していることも大きかったですね。そして、そんな原田の思いに佐藤浩市さんや石橋蓮司さんも乗っかってくれたことも、現場がひとつになれた要因で。ただ、僕が64歳で、カメラマン(笠松則通)は65歳、照明(杉本崇)は63歳、録音(志満准一)は71歳、一番若い原田が57歳で……。

黒木:おじいちゃん(笑)。

一同:(笑)。

(左から)阪本順治監督、原田満生美術監督

阪本:そんなおじいちゃんスタッフが、この若者たちを撮るというのは客観的にみたらなかなか面白いことだなと。世代間のギャップが、逆にこの映画を生む力になっていたように思いましたね。

ーー3人とも時代劇が似合う俳優と感じています。阪本監督にとっても初のオリジナル脚本による時代劇となりましたが、“時代劇”を描いていく意義のようなものはどう捉えていますか?

(左から)阪本順治監督、寛一郎、黒木華、池松壮亮

黒木:実は戦国時代だったり、武将だったり、あまり詳しくはなくて……毎回勉強しなくてはと思うことばかりなのですが、本作はそういった「歴史上の人物」ではない物語というのも面白いポイントですね。よく着物も着させていただくのですが、自分ひとりではうまく着ることができないし、どう合わせたらいいかもよくわかっていなくて。だけど、日本にしかないこんなに美しいものを残していきたいと思いますし、時代劇をとおして、より多くの人に伝えていくことも大事だと感じています。

寛一郎:この作品の一つのテーマでもある、人が“まわっていく”ということと繋がっているような気がしていて。自分たちのような世代が踏襲しなくてはいけないもの、あるいは踏襲してはいけないものを見つめながら、さらなる下の世代にも繋げていくことが大事かなと。

池松:今この国の時代劇に正直あまり良い印象はありません。外国の方がイメージされる日本の時代劇、いわゆる“チャンバラ”や“ちょんまげ”、着物だったり、それらが美しいのは事実ではあるのですが、時代劇として表面的に継承していくだけでは意味がないと思っています。懐古趣味ならば昔沢山の素晴らしい時代劇が作られて今尚魅了させられます。この国独自の様式美や精神性に深く感動することができます。何を目的として過去を描くのか、何を物語るために時代を遡って描くのか、それに尽きるのではないのかなと。継承のために時代劇を作るのではなく、遡ることで現代を生きる人、あるいは未来に伝わる物語が作れるのであれば、時代劇の可能性はまだまだ沢山あるのではないかと思っています。

阪本:まさにそのとおり。「時代劇」を作ろうということではなく、伝えたいものが現代劇よりも時代劇の方が合うのであればそっちを選択するというぐらいですね。僕も戦国武将とか、偉人とかには興味がなくて、時代劇と言っても山中貞雄監督作品のような庶民劇が好きでした。そういった庶民劇はいつの時代に観ても面白いし、『せかいのおきく』もそんな思いを込めて作った1作でしたね。

■公開情報
『せかいのおきく』
全国公開中
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
配給:東京テアトル、U-NEXT、リトルモア
©︎2023 FANTASIA
公式サイト:sekainookiku.jp
公式Twitter:@okiku_movie

▼黒木華×寛一郎×池松壮亮×阪本順治監督 チェキプレゼント▼

黒木華×寛一郎×池松壮亮×阪本順治監督 のサイン入りチェキを1名様にプレゼント。応募要項は以下のとおり。

【応募方法】
リアルサウンド映画部の公式Twitterをフォロー&該当ツイートをRTしていただいた方の中からプレゼントいたします。当選者の方には、リアルサウンド映画部の公式Twitterアカウント、もしくは公式InstagramアカウントよりDMをお送りさせていただきます。

※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※複数のお申し込みが発覚した場合、ご応募は無効とさせていただく場合がございます。

<リアルサウンド映画部 公式Twitter>
https://twitter.com/realsound_m

<応募締切>
5月16日(火)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる