松坂慶子の表情と声色の変化に注目 『らんまん』は長いキャリアの代表作の一つに

『らんまん』松坂慶子の表情と声色に注目

 早くも1週目を終え、2週目に突入した朝ドラ『らんまん』(NHK総合)。初回からのことではあったが、松坂慶子の凄みが炸裂している。平成生まれの筆者のような若年層に当たる者はいま改めて、彼女の俳優としての力に平伏しているのではないだろうか。松坂の朝ドラ出演はこれが4度目。なんというかやはり、格が違う。物語的には悲しい展開の後だが、いや、だからこそ、彼女に注目せずにはいられないというものである。

 本作で松坂が演じるのは、主人公である槙野万太郎(神木隆之介)の祖母・槙野タキ。夫にも息子にも先立たれたため、造り酒屋「峰屋」を女手一つで切り盛りし守ろうと、とにかく必死な女性である。その性格は、ときに厳しく、ときに厳しい。とにかく彼女は厳しいのだが、この厳しさは、男性が中心の社会でどうにか自分たちの看板を守り抜こうとする姿勢の表れなのだろう。そんな彼女もまた男性中心の社会に絡め取られているからこそか、「峰屋」の跡取り息子である万太郎にはより厳しい。しかし、私たち視聴者はすでに、万太郎が植物学の道に進むことを知っている。いまもっとも存在感のあるタキが今後どのように変化していくのかは、本作の手触りを大きく左右するのだろう。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 らんまん Part1』(NHK出版)にて松坂はタキ役について、「万太郎の祖母のタキは、厳しく強い女性です。コロリ(コレラ)で夫や息子を亡くし、由緒ある酒蔵を当主代わりとして守らなければならなくなったわけですから、並々ならぬ気持ちを抱えていたと思います。“はちきん”という土佐ことばがあるんですが、意味は、はっきりしていて快活で、気がよくて負けん気が強い高知の女性のこと。タキにも、厳しさの中にそういう明るさや強さを出していけたらなと思っているんです」と語っている。

 正直なところ、私たち視聴者の目に映るタキの姿とは、松坂が語るそのまんまなのではないだろうか。彼女が発する怒声の中には、どこか優しさを含んだ明るさのようなものがある。まだ2週目の現段階で、松坂の演技におけるこの秘密を解き明かすことはできやしない。「豊富なキャリアがあるから」とか「数多くのキャラクターを演じてきたから」などということはできるが、それは単なる事実であって、何の証明にもならないだろう。筆者は大スターである松坂を、そのずっと後ろの方から追いかけてきた人間でしかないのだ。

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