中村明日美子原作ドラマ版は重厚なサスペンスの仕上がりに 『ウツボラ』を覆う人間の熱

中村明日美子原作、重厚なサスペンスドラマに

 死者を間に挟んだ桜と溝呂木の関係が魅惑的な『ウツボラ』だが、2人を取り巻く人々も魅力的だ。

 朱の死因を調べる2人の刑事、溝呂木を取り巻く小説家と編集者、そして、もう1人のヒロインと言える溝呂木に密かな恋心を抱く姪のコヨミ(平祐奈)の視点が挟み込まれることで、桜の溝呂木の創作をめぐる破滅的な物語は、より立体感のあるものとなっている。

 物語の流れ自体は原作漫画に忠実だが、だからこそ実写映像独自の表現が際立って見えるのが、ドラマ版『ウツボラ』の面白さだ。

 中村明日美子のコマ割りは少女漫画的で、コマとコマが多層的に描かれ、台詞の吹き出しには独自のデザインが施されている。その結果、作中には独自の浮遊感があり、読んでいる時は異界を覗きこんだような不安定な気持ちになる。

 漫画の見せ方を、そのまま実写に落とし込んでいたら、奇抜なアングルで捉えたレイアウトが延々と続くカット数が異常に多い忙しないドラマになっていただろう。

 だが、ドラマ版『ウツボラ』の映像は正攻法の作りとなっており、安定した構図で真正面から役者の演技を捉えることで、重厚なサスペンスドラマに仕上がっている。

 また、『ウツボラ』には漫画だからこそ成立する美男美女が多数登場する。その筆頭が朱と桜だ。この2人は目が大きく極端に手足が細長い人形のような美女で、この抽象化された美しさは、二次元の画だからこそ成立するものである。

 だから、実写でこの2人を演じられる人間は存在しないと思っていたが、前田が醸し出す色気には独自の説得力があり、本来なら成立しない三次元の朱と桜を見事に演じている。

 『ウツボラ』は不思議な漫画で、どれだけショッキングなシーンやエロティックなシーンでも、静かで冷たい空気が漂っており、その静謐さが作品独自の美学となっていた。対してドラマ版は生身の俳優が演じているからこそ宿る人間の熱が画面を覆っており、各登場人物の感情がよりダイレクトに伝わってくるものとなっている。

 つまり、一見似ているようで全く正反対の魅力を放っているのだ。

 「三木桜の身体はあたたかい」「藤乃朱の身体はつめたかった」と、桜を抱きながら溝呂木が心の中でつぶやく場面が、第2話に登場する。

 このモノローグはとても象徴的で、桜の「あたたかい身体」がテレビドラマ版『ウツボラ』を、朱の「つめたい身体」が、原作漫画を表しているように聞こえる。

 第2話冒頭で桜は「熱を帯びたものにとても惹かれるのです」と溝呂木に囁き、抱き合うのだが「熱」という観点から観ても面白いドラマである。

ウツボラ/予告映像【WOWOW】

■放送・配信情報
連続ドラマW-30『ウツボラ』(全8話)
WOWOWプライム・WOWOW 4Kにて、毎週金曜23:30〜放送
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
出演:前田敦子、藤原季節、平祐奈、おかやまはじめ、武田航平、雛形あきこ、渡辺いっけい、北村有起哉
監督:原廣利
原作:中村明日美子『ウツボラ』(太田出版刊)
脚本:小寺和久、井上季子
音楽:岩本裕司、前田恵実
製作:WOWOW、The icon
©︎WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/utsubora/

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