『100万回 言えばよかった』に『6秒間の軌跡』も ドラマのアイデアに「幽霊譚」が定着?

ドラマのアイデアに「幽霊譚」が定着?

 逆に、「呪い」や「前世の因縁」といった幽霊にまつわる重々しい要素についてはとても希薄である。『100万回』の魚住は霊能者の家系であるため、お寺で暮らす姉の叶恵(平岩紙)が古い文献を読んで助言する場面が登場するのだが、霊に関係する描写は終始コミカルで、登場する幽霊も直木も含めて基本的に善人だ。

 対して直木の死因の背後にある犯罪描写はとても陰惨で「本当に恐ろしいのは生きている人間だ」と安達奈緒子が考えていることは明らかである。安達は社会派テイストのヒューマンドラマを得意とする作家で、劇中の犯罪描写は特殊詐欺を題材にした刑事ドラマ『サギデカ』(NHK総合)を彷彿とさせる。その意味でも、シリアスな刑事ドラマに「幽霊譚」というファンタジーテイストを組み合わせた異色作だったと言えるだろう。

 対して『6秒間』は、他者との交流を避けてきた星太郎の成長物語で、幽霊の父親は自立を後押しする存在だ。つまり、どちらの作品も幽霊を敵とは描いていない。邪悪な怪物というホラー映画的なイメージが強い「幽霊」だが、近年のテレビドラマではこの2作のように「大切な人を見守る存在」として描かれる機会が増えている。

 2011年の東日本大震災以降、特にその傾向に強まっており、『11人もいる!』(テレビ朝日系)などの宮藤官九郎作品には、姿は見えないが見守ってくれる存在としての幽霊が頻繁に登場する。

 震災以降、被災地での幽霊の目撃談は増えており、震災で亡くなった家族が幽霊となって訪ねてくるといった「震災怪談」が語られる機会も増えている。幽霊とは生と死の境界に立つ者だが「幽霊譚」のドラマが求められるのは、震災とコロナ禍を経験したことで「生と死の境界は曖昧なものだ」と私たちが感じる機会が増えているからかもしれない。

■リリース情報
『100万回 言えばよかった』
7月28日(金)Blu-ray&DVD-BOX発売

【Blu-ray BOX】
価格:29,645円(税込)<4枚組>
【DVD BOX】
価格:24,200円(税込)<6枚組>

特典映像(予定):メイキング、スポット集ほか
封入特典(予定):ブックレット

発売元 : TBS
発売協力 : TBSグロウディア
販売元 : アミューズソフト
©TBSスパークル/TBS

出演:井上真央、佐藤健、シム・ウンギョン、板倉俊之(インパルス)、平岩紙、春風亭昇太、荒川良々、松山ケンイチ
脚本:安達奈緒子
プロデューサー:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」(TOY’S FACTORY)
製作:TBSスパークル、TBS

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