『どうする家康』溝端淳平が最後に見せた“兄”としての微笑み 解放された今川氏真

『どうする家康』溝端淳平“最後の微笑み”

 『どうする家康』(NHK総合)第12回「氏真」。武田信玄(阿部寛)と徳川家康(松本潤)双方から攻め込まれた今川氏真(溝端淳平)は家臣に見限られ、駿府・今川館を捨てる。氏真が徳川領に近い懸川城に落ち延びたことで、家康は兄弟同然に育った氏真と直接戦うことになる。

 物語冒頭、栄華を誇った今川と桶狭間の戦い以降の今川の様子が映し出された。今川義元(野村萬斎)や瀬名(有村架純)たちと空から降る雪を見上げる氏真は、家康と顔を合わせて楽しそうに笑っていた。だが今は、陣触れを出したにもかかわらず、家臣たちはみな武田方につき、氏真の前からいなくなった。氏真の家臣・岡部元信(田中美央)を前に、氏真は「なぜ皆……余を見捨てるか!」と激しく憤る。孤独を極める氏真の顔が激しく歪み、怒り狂っているようにも泣きじゃくっているようにも見えたのが心に残る。

 氏真が脇差を首に当てたとき、父・義元の言葉が脳裏に浮かんだ。

「そなたに将としての才はない」

 父の言葉に屈辱を味わった氏真は思いとどまる。刃を首から離し、大きく息をつく氏真の眼は闘志を秘めていた。最後まで今川の領国を守ると覚悟を決めた氏真は、家康らにとって予想外に手強い相手となる。

 第12回では度々回想シーンが挿入されるのだが、氏真を演じる溝端の表情や佇まいから、氏真が真綿で首を絞められるように父・義元や家康に劣等感を募らせていくのが感じられ、観ていてとても苦しかった。14年前、家康と剣術の手合わせをしていたとき、「私には才がないのです」と話す家康に、氏真は「そんなことを申すな。諦めずコツコツやれば必ず上達するものだ」と励ました。

 氏真の正室・糸(志田未来)との回想場面でも描かれていたが、誰よりも武芸に学問に励んでいたのは氏真だ。そんな氏真が、家康が氏真の面目を慮り、剣術の手合わせをわざと負けていたと知ったとき、どれほど屈辱的だったことか。義元は「(家康は)決してそなたにへつらっていたのではない」「許してやれ」と氏真に声をかけるが、義元が家康を一目置く以上、氏真の気は休まらない。そして「そなたに将としての才はない」という言葉が追い討ちをかける。

 氏真はみずから矢を放ち、徳川勢を迎え討つ。氏真は雑穀をかじりながら徳川軍をにらむ。顔はよごれ、武具もボロボロだが、義元の言葉に強く抗い続ける氏真の目には闘志がたぎっている。

 家康が、駿府で育った鳥居元忠(音尾琢真)と平岩親吉(岡部大)を連れて掛川城へ乗り込んだとき、氏真は槍を手に取り、家康と一騎打ちの勝負に挑んだ。一瞬の隙をつかれ、家康に打たれた氏真は、すぐさま脇差を抜いて自害しようとするが、家康がそれを止める。家康は「死んでほしくないからじゃ! 今も…兄と思っておるからじゃあ!」と必死に説得するが、強い劣等感に苦しみ続けてきた氏真に家康の言葉は届かない。家康をはねのけた氏真は「父上もわしを認めなかった。誰もわしのことを……! 誰も……!」と悔しさを滲ませた。そんな折、糸が「お義父上のまことの思いは違います!」と訴える。

 義元は生前、糸に心の内を打ち明けた。義元は氏真が武芸や学問に誰よりも励んでいることを知っていた。

「己を鍛え上げることを惜しまぬ者は、いずれ必ず天賦の才ある者をしのぐ。きっとよい将になろう」

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