『ウツボラ』前田敦子演じる朱/桜は何者なのか? 耽美な魅力に惑わされる25分
原作は『Jの総て』(太田出版)や『同級生』シリーズ(茜新社)で知られる中村明日美子の同名漫画。中村の真骨頂ともいえる耽美で繊細なタッチで紡がれていく、謎が謎を呼ぶストーリーがカルト的な人気を呼び、連載終了から10年以上が経った今もネット上では考察が繰り広げられている。
映像化にあたっては様々な課題があったものの、中村は「前田敦子さんならぜひ」と快諾したそう。実際、本作を観ると中村が紡ぎだす世界観と前田の相性の良さがよく分かるだろう。まずビジュアル面でいうと、華奢ですらっとした体型に白い肌。大きな瞳の上で揺れる長い睫毛……そこには、中村が描くコケティッシュな女性がたしかに存在している。その吸引力ったらない。ただ佇んでいるだけで思わずクラっときてしまいそうな魅力で私たちに迫ってくるのだ。
それだけではない。前提として、前田は非常にエモーショナルな演技が得意な役者だ。どこか本質が捉えきれないミステリアスな雰囲気を携えている彼女の感情が、演じる役の怒りや哀しみに乗っかった時、観る人の心に大きな波紋が広がる。本作で1人2役を演じる朱と桜も普段は大人しく、何を考えているか分からないが、突如として溜めに溜めた感情を溝呂木にぶつける。その不安定さをうまく乗りこなした前田の演技に翻弄されっぱなしだ。
また、掴みどころがないのは彼女だけではなく、この物語に登場するすべてのキャラクターが不確定で曖昧な部分を抱えているといっても過言ではない。作家としての自分を捨てられず、盗作に手を染め、その真実を握っている桜に怯えながらも惹かれてしまう。みっともなくてどうしようもない。なのに、なぜか消えることのない溝呂木の人間的な魅力を北村有起哉が体現する。北村といえば、中村と榎田ユウリの共作『先生のおとりよせ』を原作としたドラマにも出演。お取り寄せを愛するフェミニンな美少女漫画家に扮するコミカルな演技が印象的だったが、さすがはカメレオン俳優。今回のドラマではイメージを一変させ、体中から中年男性の哀愁と色気を溢れ出す。
さらに溝呂木の担当編集を務める辻役の藤原季節や、溝呂木の大学時代からの友人で作家の矢田部役の渡辺いっけい、溝呂木の姪・コヨミ役の平祐奈など、一人ひとりがどこまで真実を握っているのか分からない絶妙な演技で視聴者を掌で転がす。その地に足のつかないゾクゾクっとした感覚をぜひ味わってほしい。
■放送・配信情報
連続ドラマW-30『ウツボラ』(全8話)
WOWOWプライム・WOWOW 4Kにて、3月24日(金)スタート 毎週金曜23:30〜放送
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
出演:前田敦子、藤原季節、平祐奈、おかやまはじめ、武田航平、雛形あきこ、渡辺いっけい、北村有起哉
監督:原廣利
原作:中村明日美子『ウツボラ』(太田出版刊)
脚本:小寺和久、井上季子
音楽:岩本裕司、前田恵実
製作:WOWOW、The icon
©︎WOWOW
公式サイト https://www.wowow.co.jp/drama/original/utsubora/