『舞いあがれ!』福原遥は時代が求めたヒロインだった 優しさと主張を織り交ぜた表現力

『舞いあがれ!』福原遥が愛された理由

 最終回が目前に控えている朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)において、ヒロイン・岩倉舞(現:梅津舞)を見事に演じきり、有終の美を飾ろうとしている福原遥。目覚ましい活躍ぶりを見せるここ数年の中でも、朝ドラでヒロインを務めるというのは格別だろう。私たち視聴者の誰もがこの半年間、彼女を応援し続けてきた。それはお茶の間に顔を見せる舞のことであり、それを演じる福原のことである。

 幼い頃は体が弱く、父・浩太(高橋克典)と母・めぐみ(永作博美)をはじめとする周囲の人々から心配され、見守られながら舞は成長してきた。心根が優しく、いつだって自分のことは二の次。つねに誰かのことを思いやるあまり、損をする役回り……とはならないのが、この舞というヒロインの魅力だ。彼女は自分よりも周囲の人間のことを考えた言動を繰り返してきたが、そのたびに誰もが舞の優しさに気づき、同じように優しさを返してきた。そうして幸福な人間関係を築いてきたのが舞という人なのであり、この関係性こそが本作最大の魅力の一つだ。とにかく舞の生きている世界は、優しさに満ち溢れているのである。

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 この役をオーディションで掴んだ福原は、これ以上にないほどのパフォーマンスをもって期待に応えてきただろう。彼女の透き通る声は舞の主張をそっと際立たせるため、いつも後景化していた。あらゆる瞬間(=シーン)ごとに本作が提示するテーマよりも、演じ手である福原が前に出ることはなかった。脚本の妙でもあるのだろうが、舞以外の者が主役となるような回も少なくなかった作品だ。いつも主役然とした振舞いをすることなく、ほかの者の存在を立てるべきときには自然と後ろへと回ることができる。これこそが、舞というヒロインが劇中の登場人物たちのみならず、多くの視聴者から応援される存在になったゆえんだろう。

 前作『ちむどんどん』のヒロイン・暢子(黒島結菜)は自己主張が激しく不評を買ってしまう結果になったが、これはいまの時代性にフィットしなかったからだと思う。いま必要とされるのは、多くの人と別け隔てなく幸福を共有できる存在なのである(念のため筆者の立場を付記しておくと、舞のような存在はたしかに大切だが、個人的には暢子のような人間こそこんな息苦しい社会において称揚すべき存在だとも思っている)。

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