『舞いあがれ!』福原遥は時代が求めたヒロインだった 優しさと主張を織り交ぜた表現力

『舞いあがれ!』福原遥が愛された理由

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part2』(NHK出版)において福原は、「ここまで演じてきて、だいぶ舞のことを分かってきたつもりでも、まだまだ知らない舞に出会える瞬間があって、ふとした時に日々の成長を感じます」と述べ、舞の持つ“優しさ”に触れたうえで、「今はそんな優しさに加えて、自分の夢に向かって一歩ずつ進んでいける強さを持った、本当にたくましい女性になりました」と、自身が演じるキャラクターの成長ぶりを俯瞰的に見ていることを明かしている。さらに、「演じるうえでは、声のトーンを年齢が上がるにつれて抑えて、職場の人や小さい子どもたちとの関わりで年相応の落ち着きが感じられるように心がけています。幼なじみや家族の前だと、昔に戻ったようにもなるんですけど、それがまた舞らしさだなとも思います」とも。

 舞というキャラクターを演じる者として、“主観”と“客観”を往来するように、いやむしろ、それらを同時に持ち合わせながらの演技を実践しているようである。舞は成長するごとに、経験を重ねるごとに、ただの優しい人ではなくなっていった。周囲の者たちとの関係により外面的な部分が剥がされていき、最終的には譲れないし譲らない、舞のアイデンティティともいえるものが顔を出すようになった。そこでの福原の少しばかり力んだ発声と表情は、普段の舞のキャラクターがまろやかな分、ソリッドなものに感じる。作品の顔である舞というヒロイン像のベースをぶれることなく作り続けてきたからこそ、彼女の変化を表現するときにそれがより顕著になるのだ。

 福原が体現する舞像は、父や母、祖母(高畑淳子)といった彼女にとって重要な存在を内包しているだけでなく、周囲の環境をも反映している。どんな作品においても、それぞれの登場人物はたった一人で自立できているわけではない。私たちの誰もがそうであるように、絶えず誰かからの影響を受けながら自分というキャラクターを生み出している。しかし、映画もドラマも多くの制約があるため、そういった部分まで表現してみせることは難しいのだろう。いや、これだと語弊がある。表現しようとしているはずだが、それがどうしても伝わりきらないのだ。けれども朝ドラは半年という長い時間をかけて一人の人物の人生を演じてみせることができる。その機会を経た福原は強い。いまはただ“舞=福原遥”の歩む道を見守るほかないが、これからの俳優・福原遥が舞い上がる姿をすでに夢想しているのは、筆者だけじゃないだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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