『星降る夜に』は“恋愛ドラマ”ではなかった 脚本・大石静が込めた現代社会への祈り

『星降る夜に』は“恋愛ドラマ”ではなかった

 「ポラリス」の社長・千明(水野美紀)は、元夫の連れ子であった桜(吉柳咲良)を離婚した後も愛情いっぱいに育ててきた。桜の産みの母が娘に一目会いたいと申し出てきた際も、桜の決断に一任してそっと見守る。桜は産みの母に会いに行くが、やっぱり自分の母親は千明なのだという思いを新たに、「私、お母さんのこと超愛してるから!」と千明に告げる。「ポラリス」の社長として忙しい日々を送る千明が桜のために用意する食事は、スーパーで買ってきた惣菜や、3日前の雑炊だったりするけれど、それが彼女たちらしい家族の姿なのだ。本人たちが幸せなら、それでいいじゃないか。昨今、SNSにはびこる「他人が他人の家の事情を断じる」不寛容さに対するメッセージのようにも思えた。

 長年鈴を苦しめ、結審した後もトラウマになり続けていた医療裁判。その原告人の伴(ムロツヨシ)は鈴を追い詰め、嫌がらせを続けていた。「雪宮鈴に妻を殺された」と思い込み、鈴を攻撃することで、やり場のない苦しみと怒りをどうにかしようとしていたのだ。初めは恐怖のあまりパニックを起こしていた鈴だったが、やがてそんな伴に対して「なんでだろう、あの人も、ここにいたらよかったのかなと、ふと思った」という気持ちが芽生える。

 どんな人も、そっと見守り抱きしめてくれる誰かがいる場所があって、素直に泣くことができたなら、前に進むことができるのに。鈴をそんな心境に至らしめたのは他でもない、垣根を飛び越えてくる一星の一途な愛であり、「マロニエ」の仲間たちのサポートだった。

 一星は鈴に、こう語りかける。

「(伴と鈴の)因縁を断つのが無理なら、いっそ深められたらいいのかな。鈴とあの人がただ普通の会話をできるようになるのが、きっと一番いい」

 この袋小路を脱するには自ら命を断つしかないと思い詰めた伴を、一星は抱きしめる。そこで初めて伴は、幼い子どもに還ったかのように泣きじゃくることができた。こじれてしまった関係性に対して「迎撃」ではなく、「対話」と「(広義の)抱擁」こそが平和的解決への道である。そんなメッセージが、このシーンには込められていたのではないだろうか。

  「耳が聞こえないから不幸」「余命宣告を受けて遺品整理を依頼してくる人はかわいそう」「医者だから金持ちで幸せ」「生と死は真逆で、絶対に相容れないもの」。このドラマは、そうした先入観からは見えてこない、様々な人や事柄の「本当の姿」を照らし出している。

 色眼鏡をとっぱらって、多様性を尊重する。誰もが不完全だけれど、互いに補い合うことで、皆で幸せを探すことができる。このドラマが描く「誰も置いてきぼりにしない理想のソーシャル・インクルージョン」は、絵に描いた餅と言われるかもしれない。けれどフィクションだからこそ、できることがある。

 本作の脚本を手がける大石静は、『ふたりっ子』(NHK総合)、『セカンドバージン』(NHK総合)、『鈴子の恋 ミヤコ蝶々女の一代記』(東海テレビ・フジテレビ系)など、どちらかといえば人間の「業」や「欲望」をリアルに描いた作風で知られる作家だった。しかし、「人間の本質」を探して掘り起こした結果、それを性悪説のほうに振ろうが、性善説のほうに振ろうが、根は同じなのではないか。ベテラン脚本家が今の世の中を目を凝らして見つめながら、「パターン」に甘んじることなく、アップデートを続けて至った境地。『星降る夜に』にこめられた、現在進行形でポジティブなメッセージに圧倒される。

 タイトルでもあり、劇中に何度も象徴的に登場する「星」。それは、本当は誰の心にもある「やさしさ」や「愛」の象徴なのかもしれない。それが目に見えて光っていることもあるし、光が届くまでに果てしなく時間を要することもあるけれど、必ずどこかにそれは「在る」。これは、そんな「祈り」が込められたドラマだと言えるかもしれない。

■放送情報
『星降る夜に』
テレビ朝日系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:吉高由里子、北村匠海、ディーン・フジオカ、千葉雄大、猫背椿、長井短、中村里帆、吉柳咲良、駒木根葵汰、若林拓也、宮澤美保、ドロンズ石本、五十嵐由美子、寺澤英弥、光石研、水野美紀
脚本:大石静
監督:深川栄洋、山本大輔
ゼネラルプロデューサー:服部宣之
プロデューサー:貴島彩理、本郷達也
音楽:得田真裕
制作:テレビ朝日、MMJ
©︎テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/hoshifuru_yoruni/
公式Twitter:@Hoshifuru_ex
公式Instagram:@hoshifuru_ex

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