『100万回 言えばよかった』英介が直木の命を奪った真相 未解決の謎は全て解かれるのか

『100万回 言えばよかった』英介の真相

 もちろん、直木にも直木の考える正義がある。今まさに“仕事”をさせられている少女たちがいるのだと知ってしまったからには、それを救わなければと考える。そのためには、英介にも過ちを認めて、千代の罪を暴いてほしいと願った。まるで有名な思考実験の「トロッコ問題」のようなジレンマだ。現在進行系で苦しんでいる少女たちを救って英介の事業で救われるはずの多くの子どもたちを諦めるか、それとも彼女たちを犠牲にして多くの子どもたちを救うか。直木はすでに「いい人」に立ち直った英介なら、どちらも救えるはずだと信じた。でも、英介はそれを「甘いよ」「世間はきっと許してくれない」と首を振る。

 千代にすがるほど冷たい社会を知ってきた英介だからこそ、すぐに“あっち側”に堕ちてしまう未来しか見えなかったのだろう。英介は大汗をかき、泣きながら「ごめんな」と直木に刃を突き立てる。またもや過去に縛られ、罪を重ねなければならない不幸にクラクラした。人を、未来を、信じられなくなる深い闇。1歩踏み込んでしまえば、二度と知らなかったころには戻れない。だから莉桜は、なんとしても悠依を「こっちに来るな」と近づけるわけにはいかなかった。悠依が英介に「何も殺さなくても」と言えるのは、その世界を知らずに来られた何よりの証拠なのかもしれない。

 また、直木の絶命する瞬間は息をするのも忘れるほど見入ってしまった。これまで幽霊姿で楽しい時間を過ごしてきたからか、直木に死ぬ瞬間があったことを考えないようにしてきたことに気付かされた。今夜こそプロポーズをしよう、そう覚悟を決めていたところだったのに。まさか、その夜を迎えられないなんて。どんなに無念だったことか。その言葉にならない思いが、うつろな眼差しから伝わってきた。

 握りしめていた花も、悠依と成長を眺めた思い出のセントポーリア。誰もが鉢を植えるときには、当たり前に花が咲くのを見られると思っている。でも、そんな保証なんて本当はどこにもないのに。いつだって、今この瞬間が最後のときになる可能性もある。「ちゃんとしたお別れなんてないのかも」そんなセリフを、3月11日を迎えるタイミングで聞くと、より一層喉の奥がギュッと詰まった。そして「無事でいることに罪はない」という言葉も。いつ誰がこっち側からあっち側にいくかわからない。その運命の導きに自分を責める必要はないのだと温かく包んでくれる。

 「なぜ私が……」「なぜあの人が……」と理不尽極まりないのが、この世界の残酷さ。でも、「みんな、こんな感じで生きていく」しかない。愛する人との突然の別れを受け入れ、日常を送る。とはいえ、どんなに腹をくくっても寂しさは襲ってくるものだ。目を覚ますたびに、全部夢だったらいいのにと願うほど。それが叶ったのだろうか。ある朝、悠依の目の前に朝ごはんを作る直木の姿が。話ができる。触れることもできる。これは、何が起きたのか。今までが夢だったのか。それともこれが夢なのか!?

 以前、幽霊の弥生(菊地凛子)が成仏する前に実体化することができたが、もしやそのボーナスタイムがやってきたのだろうか? それとも、噂されていた誰かの身体をもらう生き返り? いやいや、直木が誰かの身体を奪うなんてこと、するわけがない。予告編を見ると、直木の葬儀にも姿を見せていなかった直木の弟も登場するようだ。なぜ今になって直木のもとへやってきたのか。そういえば謎はすべて解けていないように思えてきた。英介が直木の殺害を自供したものの、その遺体を運び出し、家の中を整えたのも英介だったのだろうか? 夏英(シム・ウンギョン)の夫が譲にそっくりだったのは、単なる偶然だったのか?

 いやいや、考えてみればもともと夢のある幽霊モノ。この際もうどんな形でもいいので、譲ばりに「あ〜、ずっと観てたい!」と言わずにはいられない、直木と悠依が仲睦まじいハッピーエンドとなることを期待してやまない。

■放送情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:井上真央、佐藤健、シム・ウンギョン、板倉俊之(インパルス)、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜一花、香里奈、平岩紙ほか
脚本:安達奈緒子
プロデューサー:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」(TOY’S FACTORY)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/100ie_tbs/
公式Twitter:@hyakumankai_tbs
公式Instagram:hyakumankai_tbs

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