『100万回 言えばよかった』を盛り上げる 大人計画の技巧役者・荒川良々&平岩紙
井上真央主演のTBSドラマ『100万回 言えばよかった』(TBS系)。名脚本家・安達奈緒子の手による本作は、ファンタジーラブストーリーと銘打ち始まったが、ミステリーの要素や人間ドラマが絡み合い、進むにしたがって深まり、先の見えない展開となっている。それを盛り上げ支えている役者陣のなかでも光っているのが、大人計画の技巧役者・荒川良々と平岩紙である。改めて彼らの魅力を取り上げたい。
判断がつかなかったのは荒川良々だから
突然恋人を失い、その死を受け入れられない美容師の相馬悠依(井上真央)と、幽霊となって現世を彷徨っている恋人の鳥野直木(佐藤健)が、直木と唯一意思疎通のできる刑事の魚住譲(松山ケンイチ)と出会い、数奇な運命に翻弄されながらも奇跡を起こそうともがく本作。
3月3日に放送された第8話の終盤では、荒川演じる池澤英介の本性がついにあらわになった。“ぶどうグミ男”が英介だったことは、うすうす視聴者には分かっていたものの、それを英介とふたりきりの状態になった悠依がはっきりと思い出した。グミを食べる咀嚼音だけでコワい良々って、改めてすごい。
過去に悠依の思い出の残像として浮かんでいた“ぶどうグミ男”の顎やシルエットには、荒川っぽさが出ていたし、第3話で尾崎莉桜(香里奈)と会う機会をつぶしたり、第4話で、幽霊の直木が一緒に車に乗りながら、いなくなった少年を探してキャンプ場に向かった際に「なんであんなところに」とつぶやいたときの様子など、英介には端から違和感があった。
しかし、悠依が「直木は幽霊としてまだ存在している」と話したときの反応や、子どもたちを思う姿から、英介の“いい人”らしさもまた偽りには見えず、いい人なのか、そうでないのか、一体どちらに転ぶのか、全く判断がつかなかった。それこそ、まさに荒川の魅力である。また、急にスイッチが押されて豹変したところから英介が何らかのトラウマを抱えていることが推測され、直木と実際何があったかの真相とともに、英介の真実も次回、明らかになるだろう。
1974年生まれの荒川は今年の1月で49歳に、来年は50歳となる。坊主頭がトレードマークの183センチと長身の、松尾スズキが主宰する劇団・大人計画所属の役者である。映画では2008年に『全然大丈夫』で主演。ほかに『謝罪の王様』や『福福荘の福ちゃん』、テレビドラマ『あまちゃん』(NHK総合)、『俺の家の話』(TBS系)、『連続ドラマW 鵜頭川村事件』(WOWOW)などで印象を残してきたが、年齢を重ねたことで、さらに魅力を増しているように思える。本作の英介もかなりの適役であり、増えていくだろうシワやシミも、役によって違って見えるような武器にしていってくれそうだ。