『スター・ウォーズ』ファンからも絶大な支持 『マンダロリアン』が評価される理由とは?
つまり、SF作品でありながら時代劇の娯楽性をベースにしているという特徴的なスタイルを持つだけではなく、キャラクター同士の心の繋がりを描いたドラマ部分でも共通点を持つという点で、『マンダロリアン』は『スター・ウォーズ』が本来備えている魅力を共有する作品だといえるのだ。
表面的なストーリーは異なれど、このように『スター・ウォーズ』の本質的な部分を抽出し、本シリーズの内容に見事に活かしたのは、プロデューサー、監督を務めるデイヴ・フィローニの存在が大きい。彼はもともと熱狂的な『スター・ウォーズ』ファンであるばかりでなく、ルーカスフィルムに在籍し、TVアニメーション『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』シリーズの総監督を務めていた人物だ。
『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』が「新三部作」時代の物語だったように、フィローニは同世代に絶大な人気のある「旧三部作」だけでなく、「新三部作」の魅力や精神性をも体得することによって、ジョージ・ルーカスの作品づくりの意図を正確に理解しているのである。
さらにシリーズには、『アイアンマン』シリーズのジョン・ファヴロー監督を中心に、ロバート・ロドリゲス、タイカ・ワイティティ、ペイトン・リード、ブライス・ダラス・ハワード、デボラ・チョウなど、数々の才能がエピソードを演出してきた。この、他に類を見ないような豪華な試みが、シリーズの魅力をより引き上げたといえるだろう。
ジョン・ファヴロー監督といえば、近年は『ジャングル・ブック』(2016年)や『ライオン・キング』(2019年)など、ディズニーの実写作品において画期的な撮影方法を確立してきている。かつてジョージ・ルーカスは、「旧三部作」で合成技術を革新させ、「新三部作」では広範囲の“グリーンバック”によって、現在のCGを使った大作映画の礎を生み出した。『マンダロリアン』では、天井、壁をLEDスクリーンで囲んだLEDボリュームと言われる円形のスタジオを撮影現場に用いて、CG映像を映し出した背景の前で俳優に演技させているのだという。
もともとグリーンバックによる撮影は、俳優にとっては場の雰囲気を感じ取れないことで、演技がしにくいという声があがっていた。しかし、この動的な書き割りが、俳優の自然な演技を引き出し、スタッフのシーンへの理解度も高まることによって、よりナチュラルな映像表現が、新しく実現できているのだ。
さらに、『マンダロリアン』のシーズン2では、旧三部作以降のルーク・スカイウォーカーの華麗なライトセーバーが話題となったが、ここでは『スター・ウォーズ』の素材で高い品質のディープフェイク映像を作っていたファンをスタッフとして雇い、若き日のマーク・ハミルの姿を蘇らせていた。これら、常に新しい映像表現へと挑む試みもまた、ジョージ・ルーカスの成し遂げた革新の姿勢を受け継いだものだといえる。
このように『マンダロリアン』は、さまざまな点で、本来の『スター・ウォーズ』の魅力を受け継いだシリーズとなっている。だからこそ、シリーズが従来の『スター・ウォーズ』ファンに評価される結果を生み出しているといえるのではないか。
これから配信される第3シーズン以降、マンダロリアンとグローグーには、どのような試練や、新たな結びつきが描かれるのだろうか。そして新たな映像表現への挑戦や、「旧三部作」と「続三部作」の間の時代の物語のミッシングリンクを部分的に埋めてくれる期待も含め、『スター・ウォーズ』ファンを再び歓喜させてくれる内容を期待したい。
■配信情報
『マンダロリアン』シーズン3
ディズニープラスにて、3月1日(水)より日米同時配信開始
©2023 Lucasfilm Ltd.