『夕暮れに、手をつなぐ』空豆と音が繋いだ手に同居する温かさと切なさ 約束が空虚に響く

『夕暮れに、手をつなぐ』空豆と音に漂う別れ

 物語の根底にあるのは、幼い頃に空豆が母・浅葱塔子(松雪泰子)に捨てられているという過去。似た境遇からリストカットをし、心に傷を持ったセイラに空豆は優しく寄り添った。「遠くの人を楽しませる人は近くにいる人を悲しませる」――娘を捨て、服を選んだ母に空豆が向けたセリフではあるが、以前から「遠くへ行ってしまうとかね?」と時折寂しそうにしていた空豆にとって音の門出は、母の喪失と同じ寂しさを与えてしまっている。

 その象徴と言えるのが、サヨナラの印として空豆が描いた菜の花畑の別れの絵。それは母と最後に見た、海のように広がった夕暮れに染まる菜の花畑だった。音は「変わんないから。離れても、俺たち、何にも変わらない。俺も。俺たちの関係も」と言い聞かせるが、空豆は照れくさそうに受け流す。これは作品自体を否定しているわけではなく、音が空豆との未来を約束するセリフはどこか空虚に響く。それは、空豆と音が2人で過ごす未来がやってこないということが提示されているからだ。

 その上で、2人が霧島連山の花火を見に行く約束をし、夕暮れの中で目を閉じ、手を繋ぐシーンには温かさと切なさが同居している。浴衣を着た空豆と音が、芝生に寝転がり、真上に上がる花火を眺める。そんなやってくることはない夏を空想しながら、2人の手は自然と近づいていく。音の「いろよ」や空豆からの秘密のキスなど、2人の心情が見える描写はいくつもあったものの、明確にこの時から2人が思い合っていたというタイミングがいつだったかは定かではない。そんな夕暮れのオレンジのように〈ゆっくりと変わっていく〉2人の心情を積み重ねてきたのがこの第7話までであり、本作がコンセプトに掲げている「とっくに、恋に落ちていた。」にも頷ける。

■放送情報
火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、川上洋平([Alexandros])、松本若菜、田辺桃子、黒羽麻璃央、伊原六花、内田理央、櫻井海音、茅島成美、酒向芳、遠藤憲一、夏木マリ
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典(共同テレビジョン)、淵上正人(共同テレビジョン)
プロデューサー:植田博樹、関川友理、橋本芙美(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
編成:三浦萌
制作協力:共同テレビジョン
製作著作:TBS
©︎TBS
公式Twitter:@yugure_tbs
公式Instagram:yugure_tbs
公式TikTok:@yugure_tbs

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